これまで飲んできたものはいったい何なのか――ワイングラスで飲む「2万円の緑茶」〈日本の超高級品ガイド(1)〉

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 昨日出て明日消える、ちゃちな高級ではないのである。傍観する者は必ず審(つまび)らかなりと俗に言うとおり、記者が見聞きし、トライした日本の超高級をガイドする。騙(かた)るばかりでムダに高いモノもあるなかで、響き渡るのは欲望の歯車が虚しくきしむ音か、はたまた。

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「神田のある秤屋の店」に奉公する小僧は、電車賃を浮かした小銭で鮨屋の暖簾をくぐるが、カネが足りず鮨を食べることができない。

 よく知られる志賀直哉の『小僧の神様』である。

 志賀と同じ19世紀、米国に生まれた詩人エミリー・ディキンソンの作品に、小僧の心の裡(うち)を言い当てているものがある。

 成功をもっとも心地よく思うのは成功することのけっしてない人たち。

 甘露の味を知るには激しい渇きがなければならぬ。

 神楽坂の出版社に奉公する記者が渇きに耐えかねてまず向かったのは、神奈川県藤沢市の「ロイヤルブルーティージャパン」。ここでは、750ミリリットルで30万円の緑茶「キング オブ グリーン MASA スーパープレミアム」を販売する。

30万円の緑茶「キング オブ グリーン MASA スーパープレミアム」

「これは浜松の煎茶農家との連携によるものです」

 とは吉本桂子社長(44)。

「『自然仕立て』と言われる生育法で、勢いのある枝だけを選んで伸ばすことにより、コクのあるお茶ができる。枯草で幾重にも畑を覆って土壌を活性化させ、菜種かすや魚粉などの肥料を使う。さらに枝の先端を年に一度手摘みするといったように、他の農家とはまったく違う茶葉づくりをしています」

 これを1キロ入手して作ったのが他ならぬ「MASA」。無菌状態の室内において、水だけで3日間じっくり抽出し、ボトル詰めするのだ。これらは全て手作業である。

 それには手が出なかったが、2万円の銘柄を記者は試した。

 ワイングラスに注がれた液体は、黄金に薄く黄緑が混ざる。この色を「早緑色(さみどりいろ)」などと呼ぶらしい。

 口に含んで驚いた。苦みは一切ない。とにかく旨みの余韻が、ペットボトルや急須に入った茶の閲歴を思い出させた。これがお茶なら、これまで飲んできたものはいったい何なのか。

 茶会で、すべての客を一生に一度しか出会いのない者としてもてなせという教えが、一期一会である。

「特集 ムダに高いモノもある日本の超高級ガイド」より

週刊新潮 2016年1月14日迎春増大号掲載

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