ジョークを交えて“客いじり”「創価学会」池田大作名誉会長〈なぜ「新興宗教」指導者の演説に惹きつけられるのか(3)〉藤倉善郎

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 新興宗教、カルト団体に精通したジャーナリストの藤倉善郎氏が、“カリスマ教祖”の演説を通し、その手法と技術を分析。聴衆を引きつける“仕掛け”に迫る。「幸福の科学」の大川隆法総裁「ワールドメイト」の深見東州代表に続き今回登場する人物は、最も名の知られた“教祖サマ”かもしれない。

 ***

 最後にご登場いただくのは、公称827万世帯の信者数を擁する巨大組織「創価学会」のドン、池田大作名誉会長だ。その過剰な饒舌ぶりが今も語り草となっている“伝説の演説”がある。93年1月27日、ロサンゼルスで開催された「アメリカSGI&関西合同総会」でのスピーチだ。彼はこの講演の中で話をどんどん脱線させていく。アメリカの各都市から訪れた信者たちに向かって、通訳を通しながら次々とアドリブで語りかけた。例えばワシントンDCから訪れた信者に対し、

「ずいぶんワシントンは人数が少ないね。ようこそ、ようこそ。あ、クリントン、元気かしら。あのように口を上手に、うんうんと人を誤魔化してね、警察に捕まんないように、クリントン以上に口を上手く、折伏戦をやってください」

 といった塩梅。当時の大統領を茶化しながら語りかけると、会場は笑い声に包まれた。この効果について、立正大学心理学部教授で、日本脱カルト協会(JSCPR)の代表理事でもある西田公昭氏はこう読み解く。

「池田名誉会長の演説は、宗教的な神秘性よりも社会の変革を説く内容が多い。尊大な語り口調も含めて、強いリーダーシップや政治的権威性を示しています。例えば、冗談交じりにクリントンの悪口を言っている部分には、“アメリカの大統領を軽く批判できてしまうほど凄い人なんだろう”と思わせる効果がある。会場は真剣に聞いている信者ばかりなので、ここにも([1]で述べた)『集合的無知現象』が生まれます」

■先代会長の模倣

 もっとも池田名誉会長の演説は政治的権威性を示すだけではない。先の発言でも分かる通り、冗談を交え信者に語りかけることによって、近しさをアピールするというギャップの妙もある。同じ講演の別の場面ではユーモラスな動きを交えてこうおどけてみせている。

「悩みのある人は真剣に願いなさい。仏法は真剣勝負です。弓を何本射ったって、当たらなければ何もならない。ご本尊にピシュッと願いが届くような真剣勝負のお題目です! 寝ながら南無妙法蓮華経、何回やったって当たらない」

 池田名誉会長はここで頭を振りながら酔っぱらいのような口調で、「なんみょ~ほう~れんげ~きょ~」と唱えてみせたり、身体を大きく使って、弓を射るポーズをとり、「バーン!」と声に出すなどして、会場を大いに沸かせた。

 宗教学者の島田裕巳氏は、池田名誉会長の演説の技術を先代会長の故・戸田城聖氏の模倣だと指摘する。

「戸田氏はお酒を飲みながら演説した人で、一聴すると酔っ払いの戯言のようでしたが、オチがあって面白かった。池田名誉会長は下戸で酒は飲みませんが、戸田氏と同じようなノリで語り、爆笑の渦を作るんです」

 03年に学会関連会社のシナノ企画で製作された映像作品「はばたけ 英知の翼」に収録されている創価学園と創価女子短大の「卒業生大会」では、池田名誉会長は学生たちの中に入っていき、肩を叩いたり頭を撫でたりする。これに、パフォーマンスの世界を社会学的に研究し、政治家など著名人の演説にも詳しい、日本大学芸術学部の佐藤綾子教授(パフォーマンス学)は、

「学生たちに“お父さんとお母さんを大事にね”とか“いい靴だねえ”と声をかける。雲の上の憧れの人にそんなことを言われれば、気持ちが高ぶるのは当然です。これも先に([2]で)述べた『親和表現』の一つ。極端なことは言わないが、立場とは異なる“親しみやすさ”の演出が非常に上手いですね」

 異国の地という油断からか、思わず本音を漏らすシーンもあった。曰く、

「(信者に)お世辞をたくさん言っておけば、広布基金(寄付)がたくさんとれる。(通訳に向かい)アッ、これ言わないで」

 この放言から、池田名誉会長は“客いじり”と人情話に長けた、お笑い芸人のように見えなくもない。

■「鳥肌が立ったものです」

 もっともジョークや親しみやすさだけで、組織をこれほど拡大させ、維持するのは不可能だろう。ある公明党の国会議員は数十年前の池田名誉会長のスピーチについて、こう述懐する。

「私は学生時代、公明党の選挙戦で、会員に集票運動の檄をとばす名誉会長の演説を聞いたことがあります。その頃の名誉会長はまだ若く、激しさがあった。“この法戦で大勝利を共に”と、鬼気迫る口調で語る様には迫力が満ち、カリスマ性を感じました。感動で鳥肌が立ったものです」

“親しみやすさ”を見せる一方で、時にカリスマ性を発揮し、信者を引きつける池田氏――次回も引き続き、その技術を解明していく。

「特別読物 『池田大作』『大川隆法』『深見東州』 なぜ『新興宗教』指導者の演説に惹きつけられるのか――藤倉善郎(ジャーナリスト)」より

 ***

藤倉善郎(ふじくら・よしろう)
昭和49年生まれ。大学中退後、フリーライターとなり、新興宗教、特にカルト団体に注目して取材を続ける。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』。

週刊新潮 2016年1月14日迎春増大号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。