中国の“素人”っぷりが露呈した 年始「株価大幅下落」の分析

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 相場格言に「申酉(さるとり)騒ぐ」というものがある。それに従えば、申年である2016年、日本の株式市場では「騒ぐ相場」が展開されることに相成るわけだが、問題は「騒ぐ」という語の意味をどう捉えるかである。

 例えば、1月4日に催された証券業界の新年会で、野村ホールディングスの永井浩二・グループ最高経営責任者は、

「猿は騒ぐといわれ、跳んだりはねたり暴れるんでしょう。企業業績から言えば、日経平均2万2000円前後は期待できる」

 と楽観的な見通しを語ったが、年初早々日本の株式市場を襲った“騒ぎ”は、投資家にとって歓迎されざるものだったのである。

 2015年最後の取引となった12月30日の日経平均の終値は1万9033円だった。が、今年最初の取引が行われた1月4日にいきなり昨年末比497円86銭安となったのを皮切りに、8日まで5日続落。年初から5日連続で下げたのは戦後、1950年に日経平均の算出が始まってから初めての出来事で、この5日間だけで1335円もの下落となったのである。また、連休明けの12日も479円の下落となった。

 もっとも、これは日本だけの話ではない。株安は、世界の主要市場に燎原の火のごとく広がっていったのだが、その火元となったのは中国である。

■サーキットブレーカーの失敗

 中国の株式市場で今年初めての取引が行われた1月4日、上海総合株価指数は前の営業日に比べて約7%も下落。この日から上海、深圳両証券取引所に導入された「サーキットブレーカー」制度がいきなり適用される事態となったのだ。これは相場の急変時に取引を一時的に停止する制度で、株価指数が5%超下落した時点で、株式の売買を15分間停止。7%超下落すると、売買は終日停止となる。4日は午後1時33分に指数が7%超下落、強制的に取引停止となったのである。さらに、7日にもサーキットブレーカーが発動。この日、取引市場が開いていたのはわずか30分間だった。

「サーキットブレーカーの導入は明らかに失敗でした。7%という変動制限幅は小さ過ぎ、結局、株主が自分の持っている株が売れなくなるんじゃないかと恐怖に駆られ、パニック売りに走る原因を作り出すだけになってしまったのです。株主にとっての一番の恐怖は株を現金化できなくなる事態ですからね」(経済ジャーナリストの岩崎博充氏)

 こうした批判を受け、中国当局は7日夜に急遽、サーキットブレーカー制度の中断を発表。しかし週明け、11日の取引でも中国の株式市場は全面安となり、上海総合株価指数は5・33%も下落して、3016・70ポイントを記録。市場の混乱に歯止めがかからない事態に陥っているのだ。

■バブルの崩壊

 全国紙の北京特派員はこう指摘する。

「そもそも、現状の中国経済の実態を鑑みれば、3000ポイントでも高いくらいなのです。14年7月の時点での指数は2000ポイント程度に過ぎなかったのですが、中国政府は、株価が上がれば政府の支持率も上がる、と浅知恵を働かせた。そして、様々な政策を実行し、報道で煽った結果、昨年6月には5166ポイントを記録。1年で約2・5倍に膨れ上がったわけで、完全なバブルです」

 しかし、昨年6月に最高値を記録してから値崩れが始まり、7月8日には3507ポイントまで下落。わずか3週間余りで32%も暴落したのだ。その後も株価は下げ止まらず、8月には一時2800ポイント台を記録。一連の暴落はチャイナショックと呼ばれ、世界中の投資家を青ざめさせた。

「焦った中国政府は無茶苦茶な市場介入を行い、なんとか株価は下げ止まった。その後は徐々に持ち直して昨年冬には3500ポイント前後で推移していたが、政府の株価対策の1つが、大株主による株式売却を半年間禁止する、というもの。その終了期限が今年1月8日に迫っていたのです」

 と、北京特派員が続ける。

「中国政府はサーキットブレーカーの導入で株安を回避できると考えていたようですが、結果は逆効果。7日には、大株主の保有株売却に一定の制限を設ける新たなルールを発表せざるを得なくなった。一連の稚拙な対応で、中国政府が思いつきで株価対策をしている“素人”だということも露呈してしまいました」

■倍増したドル建て債務

 また、「人民元安」も中国の株価下落の要因の1つと指摘されているが、こちらについても恐ろしい数字が公表されている。元安を食い止めるため、中国人民銀行は元買い・ドル売り介入を実施しているが、その結果、昨年12月末までの1カ月間で、外貨準備高が1079億ドル(約12兆7000億円)も減少。元を買い支えるために、「国富」が流れ出ているのだ。

 元安傾向であれば輸出関連企業が儲かるはずなのに、なぜ中国は外貨準備高を減らしてまで元安を食い止めようとするのか。

「株価を下支えする意味もありますが、それだけではない。中国の国内企業のドル建て債務は、14年までの5年間で0・2兆ドルから1・1兆ドルにほぼ倍増した。これらの債務はドル建てですから、元安が加速すれば債務が膨らみ、中国の企業はどんどん破綻する。それを避けるため、中国は無理をしてでも元を買い支えなければならないのです」(エコノミストの中原圭介氏)

「特集 お屠蘇気分を吹き飛ばした『株安』底値の検討」より

週刊新潮 2016年1月21日号掲載

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