やさしいデータと数字で語る「フクシマ」の虚と実 雇用は激増 離婚は減少 出生率もV字で回復

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■善意の暴走

 一番触れづらかった「家族や子ども」の問いについても、記しておきます。

 冒頭の(3)の問い=「3・11後の福島では『中絶や流産が増えた』『離婚率が上がった』『合計特殊出生率が下がった』のうち、どれが正しい?」

 答えは、先に述べた通り「出生率のみ正しい」です。

「震災離婚ってよく聞く」とか「チェルノブイリ事故の時には中絶が増えたって聞いた」という、俗流フクシマ論を耳にした人も多いのではないでしょうか。

 しかし、流産は震災前後で変化はなく、中絶については、10年に妊娠100件あたり17・85だったのが、13年4~6月は16・24と、むしろ減少が認められました。離婚率も明確に下がり、10年の1・96に対し、14年は、1・64と全国平均より下。婚姻率も上がる気配を見せています。出生率については、確かに10年の1・52に対し、11、12年は1・48、1・41と「産み控え」とも見える現象がありました。しかし、13年には、1・53という全国最大幅のV字回復を示し、14年も1・58。震災前後で、先天奇形・異常の発生率に変化がないことは言うまでもありません。

 ちなみに、福島の平均初婚年齢は、14年に夫が30・2歳で全国3位の若さ。妻は28・4歳で16年連続1位。ある面では、福島は、人が生まれないどころか、晩婚化、少子高齢化に抗するヒントが眠っているかもしれない県であるのです。

 いかがでしょうか。

 私が述べたかったことは、「だから福島は元気です。ダメじゃありません」ということではありません。

 依然、福島は重大な問題を抱えています。例えば、震災関連死。これは、建物の倒壊や火災、津波など地震による「直接死」ではなく、その後の避難生活での体調悪化や過労など間接的な原因で死亡することを指します。その数は15年9月30日の時点で1979人。福島県内の震災「直接死」の死亡者1612人、行方不明者199人に匹敵する数字です。避難者のケアが後手に回り、避難を続けることが心身に大きな負担を与えています。

 また、放射線への恐怖感から、子どもを外に出さないことによって、子どもの体力低下や肥満、虐待の増加なども指摘されています。

 福島のことを怖い顔して時に怒鳴りながら語ったり、ものすごく難しい言葉で議論し続けたりするような人ではなくて、「福島のこと、知っておきたいんだけど、何か取っつきにくいし、でも今更聞けないよな……」と思っている「普通の人」に、問題を考える糸口を提示する。明らかになっているデータを基に、ぼんやりと思ったことを立証、あるいは反証していく。私も時には「福島は絶対危険なのにそう言わないお前は国と電力会社の回しもの」と罵られることがありますが、このアプローチこそが、膠着状態になっている福島を語る議論に風穴を開けられると考えています。本当に福島を応援したい人、「福島をどうしたらいいんですか」という問いを持つ人が、この問題に向き合うための「引き出し」を作ることが出来ると考えているのです。

 勝手に福島県民を犠牲者と見なして憐憫の情を向け、悦に入る。「福島の人は立ちあがるべきだ」と上から目線意識の高い説教をする。脱原発、被曝回避運動に利用しようとする──。こうした「善意の暴走」は単なる「ありがた迷惑」です。

 いま必要なのは、具体策もないまま「福島を忘れない」と優等生的な理念を唱え続けることでも、人々の不安につけこんだデマを妄信することでもありません。

 例えば、福島のものを買ったり観光に行ったりする。仕事の中で関わってみる。そんな、日常生活の中の「買う・行く・働く」を通して接点を少しでも作っていくことなら誰でも気軽にできるでしょう。震災から5年。福島は「正しく」現状を知りながら「楽しく」関わる方法を探求すべき時期を迎えているのです。

 ***

開沼博(かいぬま・ひろし)
1984年福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院の修士論文を書籍化した『「フクシマ」論』で毎日出版文化賞を受賞。他の著書に『フクシマの正義』『漂白される社会』がある。

週刊新潮 2016年1月14日迎春増大号掲載

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