やさしいデータと数字で語る「フクシマ」の虚と実 雇用は激増 離婚は減少 出生率もV字で回復

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■1日何十件ものデマ

 冒頭の問いに戻ります。

 まず(1)の福島の人口について。私はこれまで講演会やシンポジウムの度にこの質問を繰り返してきましたが、「10%くらい」「3割」「40%とか」と、様々な答えが返ってきます。しかし、実際は4万3497人(15年12月10日時点)で「2・2%」ですから、福島の人口流出は10倍誤解されていると言って良い。人口の何十%もが県外に大流出しているなんてことはなく、多くの人は県内に住み、生活を続けている。これが福島の実態です。

 もうひとつ重要なのは、この人口流出・減少が福島だけの問題なのか、ということです。福島の10年の人口は202万人、14年は193万人。減少率は4・5%です。一方、同じ時期の秋田県の減少率は、4・4%。青森や山形もこれに近い数字です。つまり、秋田や青森は、何もなくても、福島と同じくらいのレベルで人口減少が起きている。

 農業についても、同じような誤解が生まれています。

「福島県の米の生産高は都道府県ランキングで、震災前の10年は何位で、震災後の11年には何位か?」

「福島県では放射線について、年間1000万袋ほどの米の全量全袋検査を行っています。そのうち放射線量の法定基準値(1キロあたり100ベクレル)を超える袋はどれくらい?」

 答えは、それぞれ、「10年には4位、11年には7位」、「12年度が71袋、13年度が28、14年度が2、15年度がゼロ(15年12月30日時点)」。

 前者については、そもそも作付面積自体が原発事故の影響で2割も減っていることから鑑みると、意外とうまくいっていると評価してもよいでしょう。後者については、1000万袋に対し、当初でも100袋未満。現在はゼロになっていることから見て、確実に良い方向に向かっています。しかし、SNSの世界では、数字を調べもしないで、毎日何十件も、「福島の作物を食べたらとんでもない被曝をする」といったデマを流している方が一定数いる。こうしたことから、「3・11で福島の農業は終わった。福島産の作物なんか“もう誰も買わない”“もう誰もつくらない”状況になっているに違いない」という偏見が生まれています。

 同じ1次産業である漁業の数字は、より示唆的です。

「福島県の漁業の水揚量は、10年と比べてどれくらいに回復しているか?」

「76%」「15%」(14年)の2つの答えが出てきます。どういうことか?

「76%」は、「属人」による統計、つまり福島県に所在地をおく漁業経営体が水揚げした数字。県内に所在地をおく会社や個人の漁獲量は半分以上回復しているわけです。一方の「15%」は、「属地」による統計。福島県に水揚げされているものだけの数字です。

 つまり、福島の漁師さんたちは、収穫物があっても他の県で水揚げする傾向にあることがわかります。その理由の一つは、風評被害によって福島に揚げても高い値段が付かないから。北海道でとったサンマや八丈島沖のカツオなど、沖合・遠洋でとれたものが福島で水揚げされたからと言って、リスクが上がるということは科学的にありえません。にもかかわらず、福島で水揚げされただけで、市場価格が下がってしまう。そのため、カツオの場合、11年に福島の小名浜で水揚げしても例年の半分以下、サンマも三陸などの6~7割の値段しかつきませんでした。こうして福島の漁港やその周辺の経済システムは停滞したまま。この点の復興はまだまだ途上段階だと言わざるをえないでしょう。

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