最終兵器「ヒートショックプロテイン」とは何か 「自己免疫力」を徹底強化する最新技術(3)

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 長年、がんの温熱療法に取り組んでいた彼女には、その存在が苦々しかった。がんを熱ストレスから守るのだから、それは明らかに邪魔者だった。しかし逆転の発想が閃く。爾来四半世紀、女史はこの謎のたんぱく質の探究に取り憑かれてきた。実験を重ねるごとに人体への有用性が次々と判明した。身体のストレス耐性を上げ、免疫機能を飛躍的に高める“最終兵器”の名は、ヒートショックプロテイン(HSP)という。

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「がんの患部を電極で挟んでラジオ波を照射して熱し、細胞を死滅させるのが温熱療法です。しかし1回目の治療では効果を発揮しますが、連続の2回目は有効性がなくなることがある。その原因は、人間の細胞内に存在するHSPによる熱ストレスへの耐性効果でした。臨床現場では厄介者以外の何物でもない。しかし逆にこの量を前もって増やせれば、人の細胞に強いストレスがかかっても、組織を守ってくれるのではないかと考えたのです」

 修文大学健康栄養学部教授で、医学博士の伊藤要子氏はこう語る。

 HSPは、1962年、イタリアの遺伝子学者、リトッサ博士が、ショウジョウバエで発見したたんぱく質の一種だ。その後、大腸菌から植物、人まで、ほとんどの生物に在ることが分かった。人間には血液中の白血球や胃腸、肝臓など、各臓器に存在している。

「このHSPの量を増やすことで免疫力アップやストレス耐性向上、傷ついたたんぱく質を修復し、細胞を強化するといった効果が得られます。免疫については、HSPがNK細胞活性を高めることが、すでに科学的に実証されています」(同)

 では、どうすれば増やせるのか。伊藤教授によると、熱ストレスを体に加えるのが、一番効率的な方法だという。その最も手軽な術は、お風呂である。

「私は加温や入浴実験でHSPを増加させる『HSP入浴法』を確立しました。これにより体温を一時的に38度に上げることを目標にし、入浴するとHSPが増加しはじめます。具体的には、40度のぬるま湯なら20分、41度で15分、42度なら10分を目安に連続して入浴して下さい。これが基本ですが、途中でつらくなった時は、湯船から出て休憩しても構いません。トータルで目安の時間をクリアすれば、ほぼ38度に上昇しています。負担を感じる方は、半身浴でも結構。なお体温は、より正確な舌下温で測って下さい。次に重要なポイントは、入浴後の保温。浴室内で体を拭き、ガウンなど汗をよく吸収する衣類を着て、温かい部屋で10~15分、保温に努めます。また脱水状態にならないよう、水分も補給して下さい。ただ体を冷やさないよう、温かい飲み物にしましょう。これでHSPを2~4割、増やすことができます」

 この効果は3日ほど持続するので、週に2回、「HSP入浴法」を実践すれば、充分だという。

 高濃度の炭酸が溶け込む大分県の長湯温泉で総合内科・伊藤医院を運営する伊藤恭院長はこう話す。

「炭酸泉は、末梢血管を拡張し、保温効果が高い。より効率よく、HSP増加を促してくれます。当院の患者さんの中には、HSPが3倍にまで激増した方もいました。ただ、高齢の患者さんが多いので、2分入浴したら、2分休憩といったサイクルを5回繰り返すよう、指導しています」

 確かに炭酸泉はベストだろうが、普通の温泉にすら定期的に出かけるのが難しい人はどうすれば良いのか。

「自宅のお風呂でも大丈夫ですよ。でも、炭酸泉と同等の効果を得たい人には、炭酸系の入浴剤を使うことをお勧めします」(伊藤要子教授)

 実行さえすれば、簡単に獲得できるHSP効果。その恩恵に浴さない手はないだろう。

「特集 厳冬に負けない『鋼の身体』に鍛える! 『自己免疫力』を徹底強化する最新5つの技術」より

週刊新潮 2015年12月31日・2016年1月7日新年特大号掲載

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