国家を語る「田中角栄」音声データを出版させない「田中真紀子」

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「聞き取りにくいダミ声ながら、聴衆の心を掴んで離さない」と、田中角栄元首相の演説は昔も今も評価が高い。その角栄が天下国家を論じた貴重な肉声が、ジャーナリストによって残されていた。角栄の二十三回忌に合わせて出版が予定されていたが、直前に真紀子氏(71)から横槍が入り、計画は頓挫してしまった。

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 出版中止に追い込まれたのは、国書刊行会が版元の『角言録 未発表「田中角栄を聴く、生の声八時間」』というCD付きの書籍。音声を保管していたのはモンゴル日刊紙東京特派員の佐藤修氏(70)で、ロッキード事件で角栄が逮捕された後、初めて角栄の取材記事を報じた人物だ。佐藤氏が当時を振り返る。

横槍を入れた田中真紀子氏

「きっかけは角栄氏へのインタビューの後、秘書の早坂茂三さんから“仕事を手伝ってくれないか”と持ちかけられたことでした。以来、私は4年にわたって東京・目白の田中邸を始め、永田町や地元の新潟県長岡市の事務所などで取材を続けました。今回CDとして作品化した内容は、延べ数十時間以上の膨大な音声記録を編集したものです」

 当時、角栄はロッキード事件の公判中ながら、「戦後政治の検証と田中政治の発展」とのテーマで精力的に講演をこなしていたという。

「角栄氏は日中国交正常化を成し遂げたアジア重視の平和主義者であり、『日本列島改造論』を著すなど現在に至る日本の国土計画の先駆者でもある。私は30年以上を経た今も色褪せない角栄氏の金言を、政治家だけでなく広く国民にも知って欲しいと考えた。そこで、CD付きの書籍を出版することを思いついたのです」

 国書刊行会の関係者によると初版の刷り部数は1500部あまり。お値段は1万6200円と商売っ気も感じるが、発売日は12月10日とされ、10月からは新聞広告やテレビ番組で音声の一部が放送されるなど、宣伝活動が始まっていた。

■歴史的価値

 が、程なく出版中止を求める文書が相次いで届いたという。先の関係者が言う。

「新潟の田中角栄記念館から警告書が届き、続いて東京地裁に出版差し止めを求める申立書が出されたのです。私たちは“ジャーナリストによる公人への取材記録”と主張しましたが、地裁は記念館の“音声の著作権は記念館にある”との言い分を全面的に認めたのです。12月16日のことでした」

 角栄は今も根強い人気を誇る上、初めて公開される肉声の歴史的価値や意義は決して小さくない。そこで、田中角栄記念館に出版差し止めの理由を尋ねると、

「私はよく分からないんです」(田村巖代表)

 真紀子氏の指示によるものかと聞くと、

「そうだと思います」

 と、実質的に出版差し止めを求めたのは真紀子氏だと言う。そこで真紀子氏に見解を問うと、

「田中記念財団が発売差し止め請求仮処分の申請をし、裁判所に認められました」(田中記念財団)

 一方、思わぬ横槍に躓いた格好の佐藤氏だが、

「今回は残念な結果になりましたが、今後もあらゆる機会を通じて、角栄氏の声を広く国民に伝えていきたいと考えています」

 真紀子氏は父親譲りの野太い声で、今も周囲を引っ掻き回しているのだ。

「ワイド特集 敵もさる者 引っ掻く者」より

週刊新潮 2015年12月31日・2016年1月7日新年特大号掲載

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