捜査線上に浮かびあがった「異色の経歴を持つ組関係者」 解決が遠のいた王将社長射殺事件(1)

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「DNA型一致」「組関係者が浮上」。威勢の良い新聞の書きっぷりを見て、スワ、難事件解決か、と早とちりした方も多かったのではないか。発生から2年の節目を迎えた「王将社長射殺事件」。思わせぶりな記事の背景に浮かび上がってきたのは、京都府警の苦衷――。

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「現在、新聞各紙で“餃子の王将社長射殺事件”との関係を取りざたされている男ですが、確かに、ある時期から彼に京都府警の行動確認(行確)がついていたのは間違いない。行確に気付いた彼は、所属する組に迷惑が掛かってはいけないということで、しばらくの間は人との接触を絶って生活していたのです」

 そう囁くのは、さる暴力団関係者である。

「ところが、最近になって彼は組の関係者に“行確がいなくなりました”と報告。新聞などが彼のことを記事にしたのはその直後です。京都府警としては、彼の行確を続けていても何も証拠が出てこないのでメディアに情報を流し、今後は福岡県警の協力を仰ぎたいという思惑があるのでしょう」

餃子の王将1号店

“証拠が出てこない”“福岡県警の協力”――これらは今回の報道の裏側を読み解く上で実に示唆に富んだ指摘なのだが、それについては別の機会に詳述するとして、以下、まずは12月13日の新聞各紙の見出しを列記してみたい。

〈王将社長射殺 現場の吸い殻 組関係者 DNA型一致〉(朝日)

〈王将社長射殺 現場に組関係者DNA 京都府警 遺留品から検出〉(毎日)

〈「王将」社長射殺 遺留品に組員のDNA 九州在住、関連捜査へ〉(読売)

〈「王将」射殺 組関係者が浮上 現場遺留物、DNA型一致〉(産経)

「餃子の王将」を全国で展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行氏が同社の本社前で何者かに射殺されたのは2013年12月19日。奇しくもそれから間もなく2年というタイミングで、見出しの通りの“特ダネ”が各紙横並びで掲載されたのだ。記事に触れた人の多くは、こう思ったのではないか。なるほど、犯人逮捕、事件解決の日が近いのだな――。しかし、それは大きな勘違いであることを最初に指摘しておきたい。残念ながら、捜査本部が勝負をかける日は近づいているわけではないのだ。それどころか、その日がどんどん“遠のいて”いるからこそ、今回のような報道がなされた、という側面があるのである。

■報じられた“新事実”?

 各紙の記事で触れられている情報をまとめると、概要は次の通り。

・大東さんが射殺された現場で採取されたタバコの吸い殻に付着していた唾液のDNA型が、九州の暴力団関係者のものと一致。

・事件の4カ月後、現場から約2キロ離れた場所で、銃を撃った後の硝煙反応が右ハンドルに残るオートバイが発見された。そばには、ナンバープレートを付け替えたスクーターもあったが、その2台は事件の2カ月前に京都市内の飲食店などで相次いで盗まれたものだった。その飲食店の防犯カメラには、九州方面ナンバーの車の助手席から降りた男が、スクーターで走り去る様子が映っていた。

■異色の経歴をもつ暴力団関係者

 タバコ、DNA、九州、バイク……。各紙の記事からはそうしたキーワードが浮かび上がるのだが、中でも捜査本部が最重要視しているのが、捜査線上に浮上した「九州の暴力団関係者」の存在であるのは言うまでもない。ちなみに各紙が「九州の暴力団関係者」と書くその人物は、

「北九州市に本拠を置く特定危険指定暴力団“工藤会”に所属するある組員を指しています」

 と、警察庁関係者。また、捜査関係者によると、

「その組員は、元々は会社勤めをしていて、十数年前にヤクザになったという異色の経歴の持ち主です。そうした経歴のためか、これまでに凶悪事件を起こしたことはなく、長期の懲役に行ったこともない」

 無論、取材を続ける各紙の担当記者がそこまで知っているかどうかは定かでないが、捜査線上に浮上した男が「工藤会」に属する暴力団員であるとの事実を把握しているのは間違いない。にもかかわらず、「九州の暴力団関係者」と濁して書くのは何故なのか。

「現場に落ちていたタバコの吸い殻に付いていた唾液とDNA型が一致したからといって、その男が事件に関わったと決まったわけではない。それどころか、犯人がわざわざ現場にタバコを捨てるかどうかという点も疑問で、真犯人が捜査を攪乱する目的でそこに置いた可能性も否定できない」(捜査関係者)

 そうした事情に配慮したのだろうか。全国紙の社会部デスクは、

「もちろんそうした事情もなくはない。でも、それよりは捜査が難航していることのほうが大きいのです」

 として、こう話す。

「我々としては、DNAが一致したその男を、府警が間もなく逮捕するというのであれば、“工藤会”という組織名も書いていたでしょう。しかし、間もなく男を逮捕といった状況では全くないし、今後、逮捕できるかどうかも甚だ怪しい。そうした状況で工藤会と書くのは難しいですね」

「特集 奥歯にモノの挟まった報道では読んでも理解不能! 新聞が一斉報道! 暴力団DNAで『王将社長殺人』捜査はこうなっている!」より

週刊新潮 2015年12月24日号掲載

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