株式“持ち合い解消”加速は“買い”チャンス到来?

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 今冬の大手企業80社のボーナスは、平均91万697円。経団連によれば、ボーナスが90万円を超えるのは、2008年のリーマンショック以降初めてだという。この虎の子をどうやって増やすのか。

 今後、買いのチャンスが到来する。そう兜町で囁かれているのは、メガバンク保有の“持ち合い株”放出だ。持ち合いとは、上場企業がお互いの株式を保有することだが、半世紀以上の歴史がある。実は、1964年の証券不況の際、外資による買収の防衛策として、銀行が中心になって企業が株を持ち合うようになったのだ。

 目下、3つのメガバンクが保有する持ち合い株で、特に売り出しを拒んでいるのが“岩盤銘柄”と呼ばれる24社。時価総額で計算すると、約2兆6000億円に上る。

 例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下=FG)の保有株はトヨタ自動車、ホンダ、三菱商事。三井住友FGのそれはJR東日本、クボタ、三井物産。そしてみずほFGが新日鉄住金、JFEホールディングス、キヤノンなど。いずれも、我が国を代表する大企業がずらりと名を連ねている。経済ジャーナリストの福山清人氏によれば、

「金融庁は、2000年から資本の健全化と、株式の流動化を目的に持ち合い株の解消を働きかけてきたが、銀行は取引先との関係悪化を恐れて消極的でした。そこで金融庁は、今年9月に公表した“金融行政方針”の中で持ち合い株の問題を指摘し、解消を渋る銀行の尻を叩いたのです」

 金融庁は“持ち合い株”解消の進捗状況を報告し、最終的には保有をゼロにしろと要求した。それに屈したメガバンクは、“今後3年から5年かけて、保有株の3割を解消する”と応じて、今年度から売却を始めることになったのだ。

■5頭のクジラ

 持ち合い株の解消が加速すれば、対象企業の株価は下がるはず。だが、株式評論家の植木靖男氏は、その時こそ“買い”だと奨める。

「メガバンクが持ち合い株を売却する際、株式市場への影響を極力抑えるために“時間外取引”を行います。一方、該当企業は自社株買いで値崩れを防ぐ。ところが、一般投資家の中には“メガバンクが株を売ったが、大丈夫か”という心理が働き、売りに走るケースもあり、一時的に株価が下がるかもしれません。しかし、一時的なものに過ぎない。“ハメ込み先”もきちんとしていますから、逆に値上がりする可能性も高い」

 ハメ込み先とは、企業が、メガバンクが放出した株を何らかの事情ですべて引き受けられない場合、それに代わり引き受ける機関投資家などを指す。

「ハメ込み先は“5頭のクジラ”と呼ばれる日銀、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、年金積立金管理運用独立行政法人、3共済が有力。メガバンクの持ち合い株放出は必ず公になるので、チャンスを逃さぬように新聞やニュースに目を通しておくべきです」(同)

 一方、ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏は、投資先の落とし穴には注意が必要だと説く。

「この2年間だったら、メガバンクが放出する株は即“買い”でした。ところが、持ち合い株24社の中には今年度がピークで、来期からは業績の厳しい企業も含まれている。投資を決断する前には、『会社四季報』などの“企業分析”を参考にした方が良いでしょう」

 チャンス到来は間違いないが、投資は自己責任。落とし穴にはご注意を。

週刊新潮 2015年12月24日号掲載

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