「五輪エンブレム」の会見が、釈然としなかったワケ 間違いだらけの「謝罪会見」事例研究2015(2)

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 日本を代表する大企業や国家的プロジェクトで不祥事が頻発した2015年。企業の危機管理のプロである田中辰巳氏が「謝罪会見」の真髄を説く。危機管理には、「感知・解析・解毒・再生」という4つのステージに合わせた対応が求められるという。今回は国をあげてのあの大騒ぎが題材だ。専門家はどのような対処を勧めるのだろう。

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 次に取り上げたいのは、同じく今年を代表する騒動へと発展した「東京五輪エンブレム問題」である。

佐野研二郎氏デザインによるエンブレム

 ベルギーの劇場ロゴからの盗用疑惑が取り沙汰されたものの、公式エンブレムをデザインした佐野研二郎氏は記者会見で真っ向から否定してみせた。当時の発言を振り返ってみよう。

「指摘を受けたことについては大変驚いていますが、全くの事実無根です」「このエンブレムは、私のキャリアの集大成とも言える作品だと思っております」「私の理念としては、デザイン的に何の損傷もない。東京五輪にまつわる様々な活動を集約するエンブレムになったという自信があります」

 佐野氏が徹頭徹尾、自らの正当性を主張していたことは明らかだ。

 だが、まもなく、彼の手掛けたトートバッグのデザインや、五輪エンブレムの展開例で、画像を不正流用していたことが暴かれ、謝罪する羽目になる。そして、“キャリアの集大成”と豪語した、虎の子のエンブレムも白紙撤回されたのだ。

 先ほど述べた危機管理のステージで言うなら、彼には、犯した過ちや罪の重さを認識し、その後の展開を予測する「解析」の視点が欠如し、なかでも、「展開の予測」ができていなかった。

 ネットの急速な普及で衆人環視の度合いは強まっている。エンブレムの盗用疑惑はともかく、画像の不正流用が発覚する危険性については、自身が最もよく分かっていたはずだ。

 であれば、最初の会見を開いた時点で、

「調査の結果、過去の不正行為が明らかになりました。自らの問題によって、国を挙げてのイベントに傷をつけては申し訳ない。恐縮ながら、エンブレム案を取り下げさせて頂きたい」

 と述べるべきだった。

■“加被害混合案件”

 同様に、組織委員会の森喜朗会長や武藤敏郎事務総長も、「解析」不足で事態を悪化させてしまった。

 森氏は一連の騒動を受けて、「エラい目に遭った」と漏らしている。さすがに呆れ果てた向きも多かろうが、これも「解析」の障害である「悪意のない罪」で説明がつく。結局、森氏の認識は、武藤氏がエンブレム撤回後の会見で述べたように「これを選んだのは審査委員会」であり、「専門家が厳正な判定をして、我々はそれを受け取った」だけ、というものだったのだ。

 筆者は“加被害混合案件”と呼ぶが、彼らは自分たちも被害者だと考えている。当然ながら悪意もなければ、罪の意識もなく、そのせいで国民の不信感だけが募っていった。誰一人として明確な責任を取らなかったせいで、東京五輪のお祝いムードが消し飛んでしまったのはご承知の通りだ。

「特別読物 間違いだらけの『謝罪会見』事例研究2015――田中辰巳((株)リスク・ヘッジ代表)」より

田中辰巳(たなか・たつみ)
1953年愛知県生まれ。メーカー勤務を経てリクルートに入社。「リクルート事件」の渦中で業務部長等を歴任。97年に危機管理コンサルティング会社「リスク・ヘッジ」を設立。著書に『企業危機管理実戦論』などがある。

週刊新潮 2015年12月17日号掲載

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