2025年には、介護職員が38万人不足する―― 低賃金の重労働が「介護現場」をここまで荒廃させた!(4)

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 介護の現場に質の低下をもたらしている原因として、行政の怠慢も無視できない。

 筆者は母親がケガをした件を含め、ヘルパーの問題点をケアマネージャーを通じて複数回、世田谷区に報告している。しかし、そのほとんどは、「あっ、そうですか」といった対応で終わってしまうのだ。

 重大な事故の報告があった場合、行政は速やかに事業者に対して指導すべきだが、あまりにも腰が重い。行政としては、事業者を厳しく処分することで、ただでさえ限られた数の介護職員やヘルパーが逃げ出し、業界が立ち行かなくなることを危惧している。その意味で、行政が利用者よりも介護業者に寄っているのは事実だろう。また、そうした行政の怠慢が事業者を増長させ、“転落死”事件を招いたとも言える。

 山積する課題に対する国の取り組みについて、柴山昌彦・総理大臣補佐官が説明する。

「介護職の給与については、これまでも介護報酬の改定を通じて底上げを図ってきました。2015年度の改定も全体としては引き下げながら、職員には1万2000円相当の処遇改善を実施しています。また、結婚や出産を機に介護職を辞めた女性には再就職の支援を、学生に向けては学費貸付の対象拡大を目指しているところです」

 加えて、安倍政権は11月26日、特別養護老人ホームなどの介護施設を、2020年代初めまでに50万人分増やすという目標を発表した。厚労省が在宅介護の推進を掲げるなか、ここに来て“箱物”にテコ入れするというのだから、ちぐはぐな印象は否めない。

 また、厚労省の調査では、団塊世代が75歳以上となる2025年には、介護職員が38万人不足するとされる。たとえ施設を量産したところで、介護職員の質と量が伴わなければ、介護問題の根本的な解決とはならない。先述の給与データから推定すると、介護労働者の年収は300万円前後に過ぎないが、これを最低でも、国税庁が発表した、民間企業に勤務する従業員の平均年収“415万円”まで引き上げなければ、職員の確保は困難だ。

 介護という国家的な“危機”を前に、限られた財源は現場で汗を流す“人材”にこそ投じられるべきであろう。

「特別読物 低賃金の重労働が『介護現場』をここまで荒廃させた!――天川由記子(国際関係学研究所所長)」より

天川由記子(国際関係学研究所所長)

週刊新潮 2015年12月10日号掲載

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