後ろ向きな理由でなる「でもしかヘルパー」 低賃金の重労働が「介護現場」をここまで荒廃させた!(2)

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 さて、母親が事件の“被害者”になることは紙一重で免れたわけだが、在宅介護を選んだ筆者には、新たな問題が伸し掛かった。

 まずは経済的な負担だ。もちろん、介護保険によって定められた限度内であれば、利用者は収入に応じて1~2割の負担で済む。ただ、仕事をしながらの在宅介護では、上限を超えることは避けられない。要介護5の母親を1人で養う筆者の場合、ひと月の自己負担が50万円にのぼることもあった。

 実は、政権与党である自民党の細田博之幹事長代行も、同じような在宅介護を経験している。

「私の両親は有料老人ホームに入所したのですが、自由に生活できないことに母親が不満を抱き、在宅介護することになりました。ただ、高齢者の健康状態は見る見るうちに悪化していく。私の妻や妹だけでは面倒を見切れず、ストレスや疲労が大きくなり始めた。そこで、24時間3交代制でヘルパーを頼んだところ、月に数十万円の費用が掛かりました」

 それでも、細田氏のご両親を介護したヘルパーは一生懸命に働いてくれたというから、まだ幸運な方かもしれない。

 筆者の場合、安くない料金を支払ったのに、事業者やヘルパーの対応がお粗末で契約を解除したこともある。その最たる例が、2013年10月から半年間、ケアマネージャーと訪問介護、訪問入浴を依頼した、メッセージの子会社だ。

 東京都内では、夜間や土日になると訪問介護員(ホームヘルパー)の数が圧倒的に不足する。世田谷区在住の筆者がこの事業者を選んだのは、〈24時間地域巡回・随時訪問サービス〉を謳っていたことが大きい。

 毎月2万円弱の基本料金に加え、1回当たり6000円程の料金が掛かるが、週末も仕事に追われる身としては有り難いサービスだ。

 しかし、いざ電話をかけると、「今日は台風なのでヘルパーがいません」。それ以降も、「雪なので……」「地震があったせいで……」と断られ続ける。

 さすがに痺れを切らし、何人のヘルパーが在籍しているか尋ねたところ、

「週末は1人しかいない」

 区内の契約者は300軒にのぼるというのに、たった1人のヘルパーで賄えるはずがない。依頼の電話を20回かけて、ヘルパーが来たのは月に1度だけということも珍しくなかった。それでも基本料金は請求されるのだ。

 また、実際に派遣されたとしても“お爺さん”と呼んで差支えない高齢ヘルパーが多く、“老老介護”と変わらない。その上、

「オムツってどうやってあてるんでしょうか。3日前に入ったもので、勝手がよく分からないんですよ」

 と、言い出す始末。

 だが、これは我が家に限ったケースではないのだ。

 公益財団法人・介護労働安定センターの調査では、介護に携わる労働者のうち60歳以上は17・4%で、ホームヘルパーだけに限れば約34%に上る。つまり、ヘルパーの年齢構成は、中高年ほど比率の高い“逆ピラミッド型”なのだ。しかも、キャリア豊富なベテラン……、とは呼べない高齢ヘルパーも目立つ。

 これは高度経済成長期の教員不足で登場した“でもしか先生”と同じ構図だろう。リストラされたり、定年退職した中高年が、“仕事がないから介護でもしよう”“技術がないので介護しかないか”といった後ろ向きな理由で、“でもしかヘルパー”になっているのだ。

■虐待沙汰

 加えて、頭を抱えたのは訪問入浴の問題だ。

 寝たきり状態の母は、最低でも週1回の入浴を医師から指示されている。身体を清めることはもちろん、“生命維持”のために、入浴によって血行を促進させ、適正な血圧値を維持する必要があるのだ。費用は1回につき約1万4000円と高額。というのも、訪問入浴にはヘルパー2人に加え、看護師の付き添いが求められるからだ。

 しかし、この業者は人件費を削減するためか、多くの看護師を“派遣”で雇っているため、平気な顔で、

「今週は看護師がいないのでお休みさせてください」

 と連絡してくる。“週に1回”という医師の指示など全く無視である。月に1度しか入浴できないこともあったほどだ。

 こうした出来事が度重なり、挙句の果てには“虐待沙汰”に発展した。

 筆者が仕事を終えて帰宅したところ、“腰が痛い!”という母の叫び声が聞こえたのだ。すぐに医師を呼ぶと、“ぎっくり腰の酷い状態”だと診断された。他にも痣(あざ)が数カ所見つかったため、自宅に監視カメラを設置。その結果、ヘルパーの手つきが実に乱暴で、“そっち向けよ!”と母を叱り飛ばしていたことも分かって即刻、契約を解除した。とはいえ、問題はこの業者に限った話ではない。

 別の業者から派遣されたヘルパーも、棚の上に置かれた大型テレビを不注意で母のベッドの真横に落とし、あわや直撃の大惨事ということまであった。

 言うまでもなく、訪問介護は“密室“での仕事だ。

 その意味でもヘルパーの質は何よりも重要だが、こんな失態が頻発しているのが現実なのだ。

「特別読物 低賃金の重労働が『介護現場』をここまで荒廃させた!――天川由記子(国際関係学研究所所長)」より

天川由記子(国際関係学研究所所長)

週刊新潮 2015年12月10日号掲載

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