鬱に効く?!強酸性の湯(秋田県)全国「濃すぎる温泉」体験記(3)

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 今年もやってきた温泉シーズン、気持ちよさだけでなく効能も期待したいが、その基準になるのが成分の“濃さ”である。「濃すぎる」温泉を訪れる旅にでた。

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玉川温泉(秋田県)

■即座にヒリヒリして

 飛行機と秋田新幹線を乗り継いで田沢湖駅へ。そこから玉川温泉までは、車で約1時間。以前、同じ源泉の新玉川温泉で働いていたというタクシー運転手が、

「あそこは毒をもって毒を制する温泉だよ」

 と言う。実際、酸度はpH1・2と強烈で、毎分9000リットルを湧出する源泉の温度は98度だというから、たしかに毒かもしれない。

「お客はがん患者が多い。微量のラジウムに放射線治療と同じ効果を期待しているんだよ。実際、来るたびに元気になる人もいる」

 温泉が近づくと、腐った卵のような硫黄臭が、締め切った車内にも侵入する。

 温泉と同名の宿で受付をすませ、いざお湯に向かうと、小ぶりな体育館ほどはあるヒバ造りの浴場の貫禄に圧倒された。肩慣らしに源泉50%のお湯に浸かったが、2分ほどで肌が痛くなった。これが塩酸を主成分とする強酸性の威力か。

 いったん上がり、かけ湯をして、今度は源泉100%の湯に入った。だが、39度とぬるめなのに即座にヒリヒリしてきて、2分でギブアップ。お湯から出ても、掻きむしった皮膚にムヒを塗ったような痛さが、全身規模で進行するのだ。動かず浸かっているご老人は、いったい何者なのか。

 その脇にはドラム式洗濯機のような装置が並ぶ。首だけ出して体を蒸す箱蒸し風呂だが、記者は息が止まりそうで、人間シュウマイになる前に脱出。悔しいので源泉100%に再挑戦したが、やはり2分でリタイアしてしまった。湯上りのわが身はいたるところ赤くなっていた。効能書きに切り傷、末梢循環障害、冷え症、皮膚乾燥症とならび、うつ状態とあったが、たしかにハイにはなる。

 翌朝は屋内岩盤浴へ。長さ1・8メートルほどの岩盤にゴザを敷き、みな厚着で寝そべっている。記者は48度の岩盤を選び、しばらく寝そべってみたが、30分ほどでだいぶ温かくなった。屋外の岩盤浴場ものぞいたが、硫黄臭に満ちた湯けむりが噴き出す殺伐とした岩のあちこちに、ゴザを敷いて寝そべる人がいる。毒を制した人々。記者は毒に制されてしまったようだが。

■玉川温泉(秋田県仙北市田沢湖)
 1泊2食付7800円~ 日帰り入浴600円
(電話)0187-58-3000

「特集 2分以上は浸かれない? 全国『濃すぎる温泉』体験記」より

週刊新潮 2015年11月26日雪待月増大号掲載

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