ドンキホーテの株vs.高島屋の株 外国人観光客増で狙うなら――臆病な素人投資家が3年後に笑うのはどっちだ?(1)
長い人生、何があるかわからぬから心配だと言う人。あるいは、気にしても仕方ないと言う人。前者はその臆病さゆえに投資や資産運用に忙(せわ)しない。所詮は博打。とはいえ虎の子を投下する以上、確実さが欲しい。そんな小心者のための「3年後に笑うのはどっちだ?」。
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中国人にも人気の高いドン・キホーテ
将来などわからないのだから心配したってしょうがない――とは、「週刊新潮」において平易な言葉で哲学を綴った故・池田晶子さんの慧眼(けいがん)である。もっとも、将来が見えないから心配だという立場もあり、そういった我ら小心者は、生命保険を契約し、資産を運用するのだ。
おしなべて確かな未来というものはないけれど、投資に関して言えば比較的確度の高い未来がないわけではない。
「国策に売りなし」と投資格言にあるように、国が注力する政策に乗るのは投資家の要諦である。そしてこの3年の大きなトピックが、他ならぬインバウンド(訪日外国人観光客)。
日本政府は、2020年に年間2000万人を目指してきたが、それを3000万人に引き上げるべく戦略を練っているところだ。彼らが日本で落としてくれるカネも、4兆円規模を目標としているという。
むろん、こういったインバウンド効果で業績を伸ばしている企業は少なくない。では、3年後はどうなのか。まずはこの2社の株価対決から始めたい。
【ドン・キホーテvs.高島屋】
ディスカウントストアのドンキホーテホールディングスと百貨店の高島屋。結論を先に明かせば、ドンキに軍配があがる。
カブドットコム証券の投資ストラテジスト・河合達憲氏が、
「陳列方式の独特さ、その“雑貨屋”感はインバウンドに浸透し、そして高く評価されている」
と言うし、「ファイナンシャルリサーチ」代表の深野康彦氏も後を受けて、
「中国元、香港ドル、台湾ドル、韓国ウォン、タイバーツ、米国ドル、そしてユーロと、7つの通貨で支払えるシステムが画期的です」
日本橋高島屋
とりわけ中国人の「爆買い」をうまく引き出す環境づくりが当たっている。中国の事情に詳しい、シグマ・キャピタルのチーフエコノミスト・田代秀敏氏はこう話す。
「中国人は夕食を食べ終え、ひと息ついてから買い物に出る習慣があります。香港のデパートが夜12時まで開店しているのはそのためです」
それが証拠に昨年10月から今年3月までの半年間、ドンキでの平均客単価は日本人が2460円なのに、中国人はその10倍以上だった。
株価も好調で、昨年春には2500円程度だったが、今年夏には6000円をうかがうところまで上がった。
対する高島屋はどうか。
10月に発表したこの3~8月期の免税品売上高は144億円で、前年比3・3倍。
とくに関西での伸びが顕著で、大阪店では免税売上が前年比4・1倍、京都店も4・4倍となった。
そうした好材料もあって、昨年10月には800円台まで下げていた株価も、目下1100円台を維持している。
だが、ロータス投資研究所の中西文行代表は、高島屋が3年先も同様の売上げを示せるかは疑問だと見る。
「2年後に消費税が引き上げられたら、高額品は売れにくくなるでしょう。しかも中国は来年から、国外でのクレジットカードの使用に関して、『利用額の制限』を強化しますから、とくに高額品に買い控えが起きます」
スイス銀行などの国際金融部門に勤務した経歴を持つ豊島逸夫氏によると、
「中国では株の暴落もあったので、彼らは贅沢品の購入にブレーキをかけるようにはなるでしょう。しかし日用品まで我慢できるかどうか。中国へ行くとシャンプーなど日用品の低級感が目につきます。ティッシュペーパーに紙おむつ、そして歯ブラシ……。一旦メイド・イン・ジャパンの品質の高さに触れると、そう簡単に離れられない。要するに消費の軸足が日用品に移るということでしょう。中国経済の成長率はアテにならないけど、人間の欲望は万国共通。生活必需品を扱うドンキやドラッグストアにはまだまだ伸び代があるのです」
「特別読物 臆病な素人投資家が3年後に笑うのはどっちだ?――西所正道(ノンフィクションライター)」より