オランド大統領はIS掃討に「陸上部隊」を決断するか?

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「残念ながら」というフレーズを、フランス語では「エラース」と発音する。テロ事件の発生後、エリゼ宮に戻ったオランド大統領は怒りの感情を隠そうともせず、テレビカメラの前で国家の非常事態を宣言した。会見を注視した人々は、大統領の「エラース」に14年前にアルカイダへの攻撃に踏み切った、ブッシュ大統領を重ね合わせたという。

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画像出典:YouTube
ISIS reivindica masacre de París-ISIS attacks Paris

 オランド大統領が怒っている。481人が死傷した連続テロ事件からわずか3日の16日、フランス空軍にISが事実上の首都としているシリア北部のラッカへの空爆を指示したのだ。パリ在住のジャーナリストも興奮気味だ。

「参加したのは10機の戦闘爆撃機と2機の戦闘機でした。目標はISの指揮所や訓練所、弾薬庫といった施設など。20発の爆弾が投下され、ほとんどが命中したそうです。9月から加わったシリアへの空爆の中で最大規模の作戦でした」

 ここで思い起こすのは、2001年9月11日に起こった同時多発テロを受けた、米国政府の対応である。ブッシュ大統領は首謀者をアルカイダの指導者であるオサマ・ビン・ラディンと断定し、彼が潜伏していたアフガニスタンのタリバン政権に早期の引き渡しを求めた。ところが要求は受け入れられず、ついにアフガニスタンでの軍事作戦が始まったのだ。

 全国紙の外信部デスクが当時を振り返る。

「9・11の直後、ブッシュ大統領の支持率は史上最高の92%を記録しました。アメリカ全土が“テロ組織へ報復せよ”と一致団結したわけです」

 一方、フランスでは今年1月にも新聞社が襲われ12人が殺されたばかり。となればかつての米国のように、オランド大統領がISの指導者であるバグダディ師の引き渡しを求めたり、国民が報復を支持することはないのだろうか。

「大統領の支持率は昨年来、20%前後と低い水準で推移しています。16日の空爆後も数字に目立った変化はありません」(同)

 戦争大好きと揶揄されたブッシュ大統領さえ遠く及ばぬ支持率で、国民の団結など望むべくもないという。

■非対称戦争

 防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏も、フランスの陸上部隊投入には懐疑的だ。

「オランド大統領やバルス首相は“戦争”という言葉を使いましたが、ISによるテロは“非対称戦争”と呼ばれ、対策は非常に難しい。IS側は死を覚悟して攻めて来ますが、フランス側は人命保護が最優先です。価値観の天秤が釣り合っておらず、正面からぶつかり合えば、どちらが不利かは明らかでしょう」

 加えて、今のフランスにはシリア難民を装ったテロリストがEU加盟国経由で入国している可能性がある。空爆に加えて陸上戦力の投入となれば、彼らの動きが活発化してテロ攻撃がエスカレートすることが予想されるのだ。

 が、軍事ジャーナリストの潮匡人氏はこんな意見だ。

「フランスの外人部隊には精鋭で組織された第2外人落下傘連隊が、正規軍にも第1海兵歩兵落下傘連隊という特殊部隊があります。彼らをISの支配地域に潜入させ、指導者のバグダディ師を暗殺するという、一発逆転の打開策に打って出ることは考えられます」

 が、こうした極秘作戦は両刃の剣という。

「作戦が失敗して、隊員がISに拘束された場合は最悪です。ISは空爆の即時中止や有志連合からの離脱、或いは勾留中のIS兵士の解放など、無理難題を突き付けてくるでしょう」

 引くも進むも地獄――。

「特集 7人のテロリストで死傷者480人 自爆の爆薬は『魔王の母』 パリを硝煙の都に変えた『イスラム国』に次がある!」より

週刊新潮 2015年11月26日雪待月増大号掲載

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