USA「女子サッカー」はなぜあんなに強いのか――林壮一(ノンフィクションライター)

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5番目の人気競技として

 ヴァージニア州にあるリッチモンド・ユナイティッドのスタッフとして働くロバート・ウクロップは、1993年にU23男子アメリカ代表選手となった人物である。長くインドアサッカーの第一線でプレーした。ウクロップは主張する。

「14歳から才能のある子を指導するスタイルが出来上がっているけれど、僕自身は、あまり早いうちから一つのスポーツに絞る必要はないと考えている。長いスパンで、選手の成長を見守ることが大事だと思う。一つ一つの試合で、サッカーをやる楽しさ、喜びを十二分に感じてほしいね。個人的には、絶対にサッカーに役立つから、他のスポーツもやっておくといいよって選手たちに話している。サッカーと違う筋肉や、競争心、判断力、視野を養うことに繋がっていくからね。

 世界一になったことで驕ってはいけない。プロリーグが消滅した歴史を繰り返さないためにも、どうすれば、女子プロリーグが本当に成功するかを、日々考えながらチャレンジしていかないと。やっとここまで来たんだからさ」

 ランポーンだけでなく、現役アメリカ女子代表選手たちは他のスポーツも経験しながら、高校で基礎を身に付け、NCAA(ナショナル・カレッジエイト・アスレティック・アソシエーション)で名の通った大学に進んだ。99年の女子ワールドカップに心を躍らせた彼女たちは、まず大学王者を目標とした。女子ワールドカップ・カナダ大会の優勝メンバー23名は、全員が大学サッカーでキャリアを積んでいる。どの選手の母校もNCAAの1部に属する名門だ。

 Title IXが定められてから40年以上を経た今、NCAAの1部だけで332校もあり、大学の目にかなった女子選手は、サッカー推薦で入学できる。多くの場合、スポーツ特待生は、入学金や授業料が免除される。そして優秀な選手たちは大学での活躍が認められ、プロの世界に飛び込んでいく。これは、NFLやNBAと同じスタイルである。まずはNCAAで目立ち、教養を身に付けたうえでプロのアスリートとなる。日本と違うのは、成績の悪い選手はNCAAでの活動を認められず、大学も中退せざるを得ない点だ。日本以上に学歴が問われるアメリカは、学生の本分を重視するのである。

 フリーランスのジャーナリストでポッドキャスト・ホストでもあるクリスティアン・リンドクは、カリフォルニア大学リバーサイド校大学院で政治学を専攻し、博士課程に在学中の学生でもある。リンドクはネヴァダ州立大学リノ校在学中に4年弱、U14女子チームのアシスタントコーチを務めた。彼は大学でもサッカーを続けたかったが、チームが無くコーチ業を選択している。

「アメリカ人は基本的に、闘うことが好きな国民です。プロのアスリートともなれば、ファイティングスピリッツの塊のような人ばかりです。まぁ、ビジネスマンでも勝利を手にすることに血眼になりますけれど……。スポーツの世界では幼いうちから結果を求めることはせず、子供が選んだスポーツをいつまでも愛せるように、とことん好きになるような環境を整え、成長するに従って競争する心を強固なものにしていくような教育を施すべきです。私が働いていたチームでは、今は基礎を身に付けさせる時期だ。勝利を目指して己の限界を超えるようにもっていくのは、もう少し先でいいという理念でした。とにかく、楽しく笑顔でプレーしてもらうことを念頭に置いて接していました」

 リンドクは博士号を習得中とあって、教育的視点で女子サッカー界について話した。

「自分の街のクラブで鍛え、強豪大学に入学させ、そこで人間性を磨く。女子サッカーは大学と密に絡んで発展中だと思います。大学のコーチという職は、かなりのステイタスがあり、それもまた競争ですから多くの人がポストを狙っている。結果を出さなければ、契約が途中で打ち切られてしまうので、非常に厳しいです。こうしたなかで、アメリカ女子サッカーは結果を残し、世界一の座にいるのです。今後もNCAAは、より力を注ぐでしょうから、さらに躍進するでしょうね」

「Sporteology」というウェブサイトは、サッカーを4大スポーツに続く5番目の人気競技だと紹介した。770万人強の高校生アスリートを対象とした最新データでは、女子の競技人口が37万人強で4位、男子41万人強で5位となっている。100万人以上がプレーする男子のアメリカン・フットボールには遠く及ばないが、アメリカのサッカーは大学教育と共存しているのだ。

デイリー新潮編集部

林壮一(はやし・そういち)(ノンフィクションライター)
1969年生まれ。東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』(新潮文庫)、『間違いだらけの少年サッカー』(光文社新書)、『進め!サムライブルー』(講談社)などがある。

新潮45 2015年11月号掲載

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