「シリア難民」受け入れ〈63分の3〉をめぐる「朝日新聞」の“誤った解釈”

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 日本政府に難民申請を出した「シリア難民」が63人であるのに対し、認定されたのは3人しかいない――こうした“現状”に、「朝日新聞」などから批判が寄せられている。例えば「朝日」では、社説で〈国際貢献というにはあまりに規模が小さすぎる。日本政府は大胆な受け入れ策を打ち出すべきだ〉(9月27日付)と書き、〈難民 世界と私たち〉なる連載記事では、〈認定3人 厳格な要件解釈〉(9月28日付)とこの数字を持ち出す。また「毎日新聞」も〈「難民鎖国」と呼ばれる日本の閉鎖性を改め、紛争地からの難民を積極的に受け入れることも検討すべきだ〉(9月8日付社説)と書いた。

 しかし、シリア難民の受け入れ「63分の3」という数字について、「朝日」サイドの解釈には、疑問を感じざるを得ないのである。

■北朝鮮が崩壊したら

『日本国際社会事業団』の常務理事で難民審査参与員の大森邦子さんは言う。

「実は、『難民条約』による定義では、『シリア難民』のほとんどはそれに該当しない。彼らの大半は政府の迫害から逃れているのではなく、紛争という国の統治機構の破たんによって、国を離れた民だからです」

「難民条約」における、「難民」の定義大要は、以下の通り。

〈人種、宗教、国籍、政治的意見などを理由として迫害の恐れがあり、国の保護を受けることが出来ない、もしくは望まない者〉

 それゆえ、政府は条約の解釈通り、迫害を受けている3名のみしか、「難民認定」をしなかった。

 しかし、残りの申請者についても、国外に追放するのではなく、「人道配慮」で、一時的に滞在を認める「在留許可」を出している。すなわち、申請者は全員、日本政府に庇護されていることになるのだ。

「私はこの措置は正しいと思います」

 と、大森さんが続ける。

「日本は法治国家ですから、難民性を判断する際にも、条約の定義に照らして厳密に判断すべき。従来の定義に入らない人も“かわいそうだから”と受け入れてしまえば、今後、際限なく定義外の人々も受け入れることになってしまうのです」

 一度、シリアで基準を緩めてしまえば、万が一、北朝鮮が内紛によって崩壊した場合、シリアで認めたことを彼らについて認めない論理は何もない。北から来る数万~数十万人の規模の集団を「難民」として受け入れる場合のさまざまなコストは想像できないほど大きいが、果たしてそれに日本人が耐えられるのか? いや、そもそも、それに備えた議論すら進んでいないように思えるのである。

■跋扈するブローカー

 また、朝日や毎日が引き合いに出すドイツについても事はそう単純ではない。

 ドイツ在住のノンフィクション作家・クライン孝子さんによれば、

「ドイツは、憲法に『政治的に迫害される者は庇護権を享有する』と明記している国。ヒトラーやナチスの過去を持つために、難民の受け入れに積極的にならざるを得ない、という理由もあるのです。そのドイツにしても、これほど大量の難民を受け入れたことはありません。申請者の中には、審査を受けないまま、国内に潜り込んでしまう人もいるし、ブローカーも跋扈している。『難民ビジネス』によって生み出された『難民』もいるのです。こうした点から、国内では受け入れについて批判的な意見も多い。メルケル首相の評価も急落しています」

 と言うから、まして「島国」で、古来、外国人の大量流入の経験がない日本にとって、その判断は慎重に慎重を重ねるべきもの。軽々しく、「積極的に」「大胆に」受け入れていいものではないのだ。

 当の「朝日」「毎日」に見解を問うと、朝日はコメントは得られず。毎日も「当社の主張は社説で書いた通りです」と答えるのみである。

 哲学者の適菜収氏は言う。

「日本が『難民に冷たい国』かどうかはわかりませんが、難民認定については粛々と行うだけ。本当の難民は保護して、それ以外は認定しない。シンプルな話です。実態に基づかず、徒(いたずら)に“難民を受け入れろ”というのは、社会不安を煽るのみ。本当の難民がニセ者と同一視され、風評被害が及ぶ可能性もあると思います」

 現実を観ずに、観念の世界に遊ぶ。本音を避け、建前の議論に終始する。

 かつて「北朝鮮帰国事業」や「慰安婦」報道で失敗した過去を、「朝日」は難民問題でもそのまま繰り返しているように見えるのだ。

「特集 実態は『ニセ申請』の山と『不法就労者』の行列! 『朝日新聞』が宣伝する『難民を受け入れない日本は冷たい国』への反論」

週刊新潮 2015年11月12日号掲載

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