生殖にまつわる謎を解き明かす/『愛が実を結ぶとき――女と男と新たな命の進化生物学』

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 誰もが気づかなかった小さな「証拠」を元に、大事件を解決していく名探偵の推理ぶりはミステリー小説の醍醐味の一つだ。進化生物学の面白さもそれに似ている。化石に残された証拠や最新の分子遺伝学などの知見から、生物進化における謎を解明しようとする論理ゲーム的なところは、まるで本格ミステリー小説を読んでいるかのような気分になる。

 科学技術が進化しても、実は生物進化はいまだに解明されていない謎に満ちている。例えば、オスの精巣はなぜ“たんたんタヌキの何とやら”ではないが、こんなに危険な形態に発達したのか。これについて、研究者はこれまでさまざまな説を提示してきた。しかし進化生物学では、これらの説がどんなに確からしく思えても簡単には納得しない。

 まず、“重力に引かれて降りてきた説”は、それなら他の臓器も降りてきてしかるべきだと却下された。“精子の生産能力を下げる高温を避けるため説”は多くの哺乳類に例外があること、ヒトより高温の鳥類で精巣が体内にあることから却下される。次に“精子の貯蔵説”が有力とされたが、これも「それでは精子を製造しない幼児の精巣も降りている理由が説明できない」ということになる。

 このように、さまざまな知見から導き出された仮説をあらゆる角度から検証していく過程そのものがミステリー小説同様に楽しいから、私は進化生物学の新刊をむさぼるように読んでしまうのだ。

 本書も、そんなミステリー小説のような要素がたくさん詰まった進化生物学の新刊だ。ヒトの性交、受胎、出産、授乳など、生殖にまつわる古今東西の研究成果を面白く、わかりやすく解説している点など、エンターテインメント性に溢れた本格ミステリーのように楽しめる。しかも生殖医療や環境ホルモンの問題にも触れているところなど、社会派ミステリーの要素もある。「難しそう」などと敬遠しないで、ぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。

[評者]鈴木裕也(ライター)

2015年10月号掲載

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