あなたのマンション「杭打ち」工事はこんなにデタラメ
「杭打ち偽装」をやっていた人物は他にも41件の工事に関わっていた。横浜の欠陥マンションから始まった杭打ち偽装問題はどこまで広がるのだろうか。販売元の三井不動産が補償の決着を急ぐなか、デタラメ工事の「闇」は手つかずのままである。
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杭打ち偽装が発覚した『パークシティLaLa横浜』
「建て直すにしろ、買い取ってもらうにしろ、決まったら出て行かなくてはなりません。ここでずっと暮らすつもりだったから家具が多くて……今日も朝から荷造りですよ」
杭打ち偽装が発覚した『パークシティLaLa横浜』、その中央棟に住む住人は、諦め顔でそう話す。
10月31日と11月1日、三井不動産レジデンシャルは、ようやく住民に補償内容を正式提示する。問題が明るみに出てから、会社と住民たちの話し合いは紛糾するばかりだったが、はっきりしたことが一つある。最大手のマンション業者でも、建物の「杭」が、きちんと刺さっているかどうかは分かっていないということだ。
改めて整理しておくと、今回、偽装問題が起きた『パークシティLaLa横浜』は、販売が三井不動産レジデンシャルで、施工は三井住友建設が請け負っている。その三井住友建設は、基礎部分の杭打ちを下請けに発注しているが、実際の工事は孫請けの旭化成建材が行った。70本の杭のデータを改竄したのは、同社の契約社員である。
「旭化成建材によると、問題の社員は“現場代理人”という立場でした。工事は、同社がさらに杭打ち専門業者に発注するので、曾孫請け業者(8人一組のチーム)が現場で作業するのです。ここでは、ゼネコンが作った『杭伏図』という地図をもとに打ち込み作業をやりますが、現場代理人は、作業を監督し、杭が支持層に届いたかを確認する。この人物は以前は名古屋にある旭化成建材の下請け会社にいて、後に中部支社に採用されている。5~6年前から別の職種に変わっていますが15年以上のキャリアがある専門家だそうです」(社会部記者)
だが、旭化成建材の調査によると、契約社員のやったことはいい加減そのもの。「(掘削データを記録する)プリンターのスイッチを入れ忘れてしまった」、「データを印刷する紙が雨に濡れて使えなくなった」と白状、そのミスを隠すために改竄してしまったのだという。
同社の常務執行役員は、会見でこうも話している。
「物言いや振る舞いから、性格はルーズ、事務処理は苦手な人間だなと思った」
言うなれば、下請け出身のダメ契約社員が出来心でやった事だと言うのである。その結果、巨大な欠陥マンションが出現したわけで、1人の不埒者がやったことにしては、あまりにも被害甚大なのだ。だが、
「杭打ちの現場を知っている者からすれば、旭化成はこの問題を何としても一不良社員の責任にして済ませたいはず。今回の偽装は氷山の一角で、実際は建築業界の悪しき慣行だからです」
そう明かすのは現場代理人の経験があり、旭化成建材の仕事も数十回請け負ったことがある杭打ち会社の元幹部だ。
「旭化成建材は契約社員が他にも41件の建設に関わったとしていますが、同社の仕事で杭が支持層に達していないのに、問題にされなかったケースは他にもある。そして、大抵の場合、偽装は、元請けの意向を汲んでやっている。私自身がその現場にいたからよく知っています」
元幹部が続ける。
「もちろん、それらの建物は今も傾いていません。支持層に達していない杭があっても四隅がしっかり刺さっていたり、土の圧力(土圧)で杭が固定されているからです。不安になって会社の先輩に相談したこともありますが、大抵は、“これまで傾いたことがないから大丈夫”で片づけられてきました」
一般に建物の杭打ちはオペレーターが杭打ち機を使って杭伏図に書かれた深度まで穴を掘る。支持層に達するとドーンと音がして煙が上がり、電流グラフに記録される波形も一気に“到達”を示す。
■見抜くのは不可能なのか
「ところが、いつまで経っても支持層に達しない杭もままある。いつも杭伏図通りの深さとは限らないからです。我々は、データを元請け(ゼネコン)に渡してどうするか判断を仰ぐ。普通ならボーリングして再調査となりますが、その間、工事をストップしなくてはなりません」(同)
杭打ち費用は1日あたり70万円ほどかかり、延びれば毎日加算される。その間、杭打ち会社のチームは現場から離れることも出来ない。
「1週間も延びたら施工業者の利益が吹っ飛んでしまいます。工期の最初の方なら、再調査しますが、終わりに差し掛かっていると目をつぶって続行することがままありました。ある程度刺さっていたらいいという認識です。“他の工法でカバーするから大丈夫”と説明されますが、そういう時は、我々がデータを整えなくてはいけないので電流の波形が振り切れているグラフを新たに作って差し替えてしまうのです。杭打ち会社の人間は、仕事をもらう立場ですから異議なんか挟めません」(同)
『パークシティLaLa横浜』の発売当時のパンフレットには、杭打ちの様子が写真入りで紹介されている。実態を知らずにマンションを売り出す三井不動産の自信が伝わってくるようだ。
不動産コンサルタントの長嶋修氏が言うのだ。
「三井不動産も社内のチェック体制があったはずなのに分からなかったのですから、マンションの購入者が偽装を見抜くのは不可能です」
だが、それでも購入者がバカを見ない方法があるとしたら、
「支持層が浅い土地を選ぶことです。たとえば東京なら山手線から西側。八王子のあたりだと本当に地盤がしっかりしています。ここは武蔵野台地にあり、1メートルほど掘るだけで支持層にぶつかり直接コンクリートを乗せるように建設できる。逆に、ダメというわけではありませんが、埼玉県東部(東武伊勢崎線沿線)のように支持層まで30~40メートル掘らなくてはいけないところもあることを知っておいたほうがいい」(同)
実態を知ることのできない庶民の、せめてもの知恵である。
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