ミラノ万博で大人気「日本館」活況の裏に和食ブーム 1州に259軒の和食レストラン

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 10月末で閉幕したミラノ万博「日本館」は半年間で200万人以上の来場者を集め、最大9時間待ちという大人気の様相を呈していた。日本館が盛り上がる背景には、イタリアにおける和食ブームがある。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では昨年11月現在、ミラノを州都とするロンバルディア州だけで、259軒の和食レストランがあるという。

日本の食に関する作法や文化を伝える、万博「日本館」が果たしている役割は、大きい。(日本館の壁面に展示された精巧な模型

 たとえば、ミラノの「カーザ・ルチーア」というイタリアン・レストランを訪ねると、「こちらもよろしく」と、オーナーから「キヨ」なる和食レストランのカードを渡された。彼が日本人シェフを雇って、新規に開店したのだそうだ。

 09年にオープンした居酒屋「菫(すみれ)」を訪ねたが、昼は60~70人、夜もほぼ同数の客で、常に満席だ。

「やはり一番人気は寿司で、次が刺身。魚系が人気ですが、常連客は鶏のから揚げなども好みますね」

 とは店員の話。

 また、昨年2月にオープンした「ふくろう」も、昼夜ともに、45席が1・5~2回転する賑わい。日本人が多い地域にあるが、宣伝もしていないのに、イタリア人の客のほうが多くなったという。
 だが、まだ普及の途上で苦労は多いようだ。二宮由和料理長は、当初は「寿司からの脱却」がコンセプトだったと、こう語る。

「新規のお客さんは和食というと寿司と刺身ばかりで、“それだけでいい”と言うのですが、特に夜は意識して、主菜的なものを出すようにしています。ただ、イタリア人はひと皿にたくさん盛られた料理をひとりで食べ、皿の数が多いのに慣れていない。取り皿を渡して、シェアしてもらうように説明しています」

 味の好みも、もちろん日本人とは異なって、

「こちらで作られているユメニシキというコシヒカリを出していますが、イタリア人は白米の食べ方がわからず、醤油をかけたりと、何かしら味を欲しがるんです。だから、おむすびは人気です。魚も、彼らは醤油をたっぷりつけてしまうので、醤油はうちで薄く仕込み直しています。とにかく味がついたものが好きで、揚げ物は天ぷらもから揚げも人気で、魚なら照り焼きや西京焼き、うなぎとか好きですね。漬物も塩味だから好まれる。一方、納豆や塩辛、またホルモンもあまり好まれない。ホルモンの味がそのままの料理はこちらにはないから。でも、みなさん、馴染もうという意思はありますよ」

 もうひとつ、問題はテーブルマナーだそうで、

「カウンターでの派手ないちゃつきは困りますね。箸をスティック代わりにたたきはじめる人もいます」

 彼らを啓蒙するうえで、日本の食に関する作法や文化を伝える、万博「日本館」が果たしている役割は、大きいというべきだろうか。また安全性の問題もある。ミラノ在住のジャーナリストによれば、

「最近増えた和食レストランには、中国人が経営している店も多く、そういう店は、刺身を扱う際に殺菌をしているかどうかなど、衛生面での心配が絶えません。和食全体に対する悪い印象につながりかねない」

並ぶのが嫌いなはずのイタリア人が行列を作っている

 万博によって和食がアピールされれば、便乗商法によるリスクも同時に増えるというのだ。農水省は今、

「一昨年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたのをホップ、ミラノ万博をステップ、20年の東京五輪をジャンプとして、日本の食文化の発信を強化しようとしている」(担当記者)

 というが、いちゃつき防止から衛生面まで、さらなる啓蒙が、万博後の課題ということであろうか。

「特集 イタリア人が行列9時間! 参加140カ国中の断トツ! ミラノ万博『日本館』が圧倒的な人気になった理由」より

週刊新潮 2015年10月29日号掲載

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