『相棒』を『下町ロケット』が狙い撃つ「秋ドラマ」最前線

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 猛暑も遠のき「鑑賞の秋」到来である。ひとつ腰を据えて面白いドラマでも、といった期待に応えるべく、各局とも満を持して新作を世に放ったことだろう。が、早くも明暗のコントラストは鮮明になりつつあるようで……。そんな10月期の“攻防最前線”をお届けする。

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天海祐希

 改編期を迎えるたび、視聴率争いとともにクローズアップされるのが「女優対決」。今期は、天海祐希vs篠原涼子という、実力派同士の好カードである。

『偽装の夫婦』(日テレ系水曜22時)は、人間嫌いの天海が、沢村一樹演じるゲイと“偽装結婚”するという筋書き。天海はおよそ1年半ぶりの連ドラ主演だが、初回視聴率は14・7%と順調な滑り出しだった。ライターの吉田潮氏が言う。

「天海はこれまで、正しくて強い女性を演じる女優のイメージでしたが、今回は全く異なる心の狭い役。彼女が内心で相手を罵る時に『クソガキ』『ババア』といったセリフが字幕で現れる演出も秀逸で“偽悪ぶり”が楽しめるドラマです」

 作家の麻生千晶氏も、こう称えるのだ。

「なよなよした役の沢村さんを相手に、表情豊かな天海さんが切り込んで決断していく姿は、観ていて気持ちが良いですね。遊川和彦さんの脚本もよく練られています。NHK朝ドラの『純と愛』は賛否両論ありましたが、やはり民放の方が相性が良いのでは。今期、一番楽しみな展開の作品です」

篠原涼子

 一方、天海のライバルに擬せられた篠原は、『オトナ女子』(フジ系木曜22時)で2年半ぶりの連ドラ主演。共演の吉瀬美智子や鈴木砂羽と、恋に仕事に奮闘するアラフォーを演じている。が、

「タイトルからして駄目だと思います」

 そう断じるのは、コラムニストの丸山タケシ氏だ。

「世間では“餃子女子”などと言いますが、散々使い古された言葉は、すでに飽きられていることが多い。そんな中で臆面もなくタイトルを打つところに、フジテレビの危うさを感じます」

 演出においても、時代を取り違えているという。

「第1話は、篠原が斎藤工演じる年下のヒモ彼氏に浮気された挙げ句、フラれる展開でした。その際に土砂降りの雨の中で泣くシーンがあり、そこで江口洋介に慰められるのですが、フラれて泣いて雨が降る、なんて演出は“昭和の手法”ですよ。大体、若い男が去ったくらいで泣いていたら『オトナ女子』でも何でもなく、小娘でしょう」

 初回は篠原が江口から、

〈40歳の女を女子とは言いません〉

 そんな台詞を浴びせられる場面があるが、これに尽きるというわけか。さすがに数字は容赦なく、こちらは初回が何と9・9%。かつて視聴率女王と持て囃されたのも今は昔、緒戦は天海に軍配が上がった――。

香里奈

■香里奈の女優生命は

 上智大学の碓井広義教授(メディア論)は、

「フジテレビの悪い癖である“バブルを引きずった感”が明白です。篠原さんは女優としては悪くないのに、2分に1回、髪の毛をかき上げるという演出がついていて、仕事をするなら髪を縛れ、と思わせてしまう。恋愛モノというと、すぐにお洒落でファッショナブルで……と考えるフジは感性が止まっているのだと思います。内容も40代の切迫感がなく、上滑りしている。初回からひとケタというのは、視聴者を舐めてはいけないという戒めなのだと思います」

 フジでもう一つ。かつてのヒット枠「月9」も、今や隔世の感は否めないが、石原さとみ主演の『5→9~私に恋したお坊さん~』(月曜21時)は、少女漫画が原作だけあって、石原扮する英会話講師と彼女に思いを寄せる寡黙な僧侶(山下智久)という奇抜な取り合わせのラブコメディー。

「設定が奇想天外すぎて、両者のファン以外はついて行けません。第一、表参道で英会話を教えるなんて何年前の物語か、と鼻白んでしまう。ここでも、中途半端にバブルなフジの体質が出てしまった格好です」(スポーツ紙芸能デスク)

 ストーリーのみならず、同作では他にも驚くべき事態が生じている。

「エンドロールのクレジットは石原から始まりますが、実質的にW主演である山Pこと山下の名が、なんと最後に登場するのです。共演の大ベテラン・加賀まりこを差し置いて、大御所がクレジットされる“トメ”の位置を占めているのだから、違和感を禁じ得ません」(同)

 天地がひっくり返ってしまったというのか。

石原さとみ

「フジは当初から石原主演で進めていましたが、相手役に山下を充てたところ、ジャニーズ事務所から“主演にしてほしい”と要望が出された。そのため、いったんはW主演という案が浮上したものの、石原の所属するホリプロが首を縦に振らず、苦肉の策として、山下を2番手クレジットより格上のトメに置くことで収めたのです」(民放関係者)

 知恵の使い方を間違えている気もするが、ともあれ今期は、奇抜な設定や配役のミスマッチが豊富である。

 例えばTBS系『結婚式の前日に』(火曜22時)で、挙式間近で脳腫瘍と診断される花嫁を演じている香里奈。昨年3月にしどけない寝姿が写真誌で報じられたのはご存知の通りだが、

「余命云々とか、運命に逆らう若い女性といった話は、既視感だらけで陳腐です」

 と、碓井教授は嘆きつつ、

「そもそも、なぜ香里奈さんが主演なのかと誰もが疑問に感じているはず。視聴者には今、彼女を観る動機が何もないのですから」

 前出の丸山氏も呆れ返る。

「31歳にもなった香里奈が、わざとバカっぽい台詞を吐く箇所が気になります。病気を婚約者に打ち明けるシーンで『なんでアタシなの?』『意味わかんない』などと、実に軽々しい。無理して今風の女の子らしく見せるあたりが浅はかで、現実の同じ状況でそんな言葉が出てくるのかと。この番組に関しては、TBSはやる気がないのかもしれません」

 お茶の間にもそんな空気が伝わったのか、フタを開けてみれば初回から7・7%とシビアな結果に。先の芸能デスクが言う。

「実は香里奈は、復帰作で主演を張ることには消極的でした。ところが事務所は“1作目が今後を決める”と考え、話題作りになると踏んだTBSと思惑が一致して組み込まれてしまったのです。この数字が続くならまだしも、先々5%を割るような事態になれば、本当に女優生命の危機を迎えるでしょう」

ガッキーこと新垣結衣

 ドラマと同じく、シリアスな結末にならないとも限らないのだ。続いて、ガッキーこと新垣結衣が、1日で記憶が失われる探偵を演じる日テレ系『掟上今日子の備忘録』(土曜21時)。こちらもライトノベルが原作で、新垣の芝居はさておき、見どころは銀髪に丸眼鏡の「コスプレ」だという。

「一般の視聴者は、突飛なストーリーより彼女の姿かたちに目が向きます。普通のOLや学生役より、こうして作り込んだ役柄の方が、本来の美貌が演技力をカバーすることで観られる作品になる。それが今回の発見でした」(碓井教授)

■波瑠が抱かせる期待感

 さて今期のもう一つの見せ場は、「鉄板シリーズ」vs「ヒット軍団三たび」であろう。シーズン14を数え、新たに反町隆史を迎えたテレ朝系『相棒』(水曜21時)と、『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』と続けて大当てしたTBSが同じチームで臨む『下町ロケット』(日曜21時)である。

「前シーズンの『相棒』は、成宮寛貴が実は連続暴行事件の犯人で逮捕されるというエンディングだったため議論を呼び、新相棒への注目ががぜん高まりました。一方『下町ロケット』は、前2作と同じく、今や“ドラマ化イコール大ヒット”が定番となった池井戸潤氏の原作。両局とも、明らかに今年の最高視聴率を狙いに来ています」(前出デスク)

 その第1ラウンドは『相棒』18・4%、『下町ロケット』16・1%という結果に。『相棒』ファンだというコラムニストの林操氏は、

「反町の起用はひとつの転機かと思います。成宮も及川光博も、これまでの相棒役はメジャーになるための登竜門でした。ところが反町はすでにメジャーで、最近大当たりがない状態。もし今回、復活を遂げたら、『相棒』は俳優再生工場の役割も果すことになります」

 むろん死角もあるわけで、

「大前提として、反町が法務省のキャリア官僚にまるで見えないのが弱点です」

 とは、先の吉田氏だ。

「及川や成宮になかった“オス臭”があるのが反町の新味ですが、肝心のエリート臭が全くしない。本来なら水谷演じる右京より知的レベルが高くてもおかしくないのですが……。官僚らしい台詞も体得しておらず、棒読みも目につきました」

 実際に初回は、オーバーアクションと相まって「事務次官」などという、普段口にしたことがなさそうな単語を辛そうに発する姿が印象的だった。

 一方、小差でトップをうかがう『下町ロケット』は、

「期待通りの初回でした。まず、ロケット事業という非常に専門的で複雑な世界をテーマにされた池井戸さんが素晴らしい。並の作家ならばすぐに馬脚を現してしまうところです。町工場の社長・佃航平役の阿部寛さんは格好良く、『半沢直樹』で見られた顔のアップ手法が用いられているのも良いですね」(麻生氏)

 主役もさることながら、脇を固める面々が作品の“推進剤”たり得ていると指摘するのは、さるテレビウオッチャーである。

「佃の弁護士役の恵俊彰が真面目な役柄をこなしているのが意外でした。敵対する悪徳弁護士に池畑慎之介(ピーター)というのも、『半沢直樹』における片岡愛之助のように話題を呼びそうです。他にも銀行支店長の東国原英夫やその部下の春風亭昇太、また佃に接近するロケット開発責任者という重厚な役どころに吉川晃司など、これでもかと言うくらい多彩です」

 さて、ここで公共放送も見ておこう。『あまちゃん』以来の朝ドラ熱はいまだ覚めぬようで、現在のところ『あさが来た』は、毎週20%台を堅持している。

「前作の『まれ』は、ヒロインがパティシエを目指していたはずが突然妊娠したりと、ご都合主義的な作りで迷走しましたが、今回は幕末から明治にかけて実業家として活躍した女性の実話がベース。アウトラインがきちんとしており、安心して観ることができます」

 そう碓井教授が言えば、前出の麻生氏も、

「土屋太鳳さんや吉高由里子さんなど、これまでのヒロインは優等生的な美人でしたが、今回の波瑠さんはファニーフェイスの美人。商家の娘に生まれ、さまざまな事業を興していく役柄にふさわしい、何かをしてくれそうな期待感を抱かせてくれます」

 秋の陣は、まさに火蓋が切られたばかりである。

週刊新潮 2015年10月29日号掲載

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