南京大虐殺の「世界記憶遺産」登録を認めたユネスコ事務局長の野望
女性を強く動かすのは、「利害」「快楽」「虚栄」の3つだという。それは国連機関の幹部も例外ではない。10月10日にユネスコ(国連教育科学文化機関)が、「南京大虐殺文書」の「世界記憶遺産」への登録を認めた。中国にユネスコの政治利用を許したのは、イリナ・ボコバ事務局長(63)。彼女が胸に秘める野望とは。
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ブルガリア出身のボコバ事務局長は、上品な容姿とは裏腹に相当の野心家だ。
「彼女の頭にあるのは、来年末に控えた国連事務総長選挙と言って間違いありません。歴史的な評価や事実認定が定まらない案件の世界記憶遺産登録は極めて異例ですが、それを強行したのは、彼女が中国を味方につけたいと考えたからに他なりません」
と言うのは外信部記者。
「国連の事務総長は2期10年で交代することと、世界のあらゆる地域から輪番で選ばれるのが慣例です。1945年の国連創立以来、8人の事務総長が誕生しましたが、未だに東欧出身者はゼロ。しかし、今回ばかりは順番的に東欧が有力視されているのです」
すでにボコバ氏を始め、クロアチアのプシッチ第1副首相やスロベニアのトゥルク前大統領といった面々が立候補を表明しているが、その最有力候補のボコバ氏は、何かと中国と友好的過ぎる関係が取り沙汰されている。例えば、欧米の首脳が一切出席しなかった、今年9月に北京で行われた抗日戦勝記念行事に夫と共に出席したことが明らかになっている。
「その際、彼女はわざわざ習近平国家主席夫人と会談しています。父親がブルガリア共産党機関紙の編集長という家庭に育ったことで、中国共産党にもシンパシーを持っているという指摘もあります。いずれにせよ、国連内部でも彼女の親中ぶりは有名です」(同)
つまり、ボコバ氏は中国が事務総長選挙で、自分に拒否権を発動しない代わりに「南京大虐殺文書」の世界記憶遺産への登録を認めるという“裏取り引き”を行ったと疑われているのだ。
■死のキス
外信部記者が続けて言う。
「事務総長の選出は、国連憲章で“安全保障理事会の勧告に基づいて総会が任命する”と定められています。立候補者は193の加盟国代表が出席する総会での質疑を経て、安保理で1人に絞られます。その際、米、英、仏、露、中の常任理事国だけが“死のキス”と呼ばれる拒否権を保有しており、この1カ国でも反対すれば承認はされません」
南京事件を有効な外交カードとして確立したい中国と、職責より自身の栄達を優先する国連機関のエリート幹部。両者の利害が一致したことで、「南京大虐殺文書」は国連機関のお墨付きが与えられた疑いが濃厚だ。
では、ボコバ氏に対して中国以外の4カ国は拒否権を発動しないのか。ユネスコ本部がある、パリ在住のジャーナリストが解説する。
「冷戦後、東欧各国は経済的にも軍事的にも欧米、とくに米国に強く依存してきました。中でもブルガリアはEUやNATOに加盟していますから、米国や英国、フランスが反対することは考えにくい」
残るロシアも、中国に同調する可能性が高いという。
「ロシアは昨年3月のクリミア編入で欧米から様々な経済制裁を科され、景気の急速な後退に苦しんでいます。いまや欧州に代わる天然ガスの輸出先は中国くらいで、ロシアは頭が上がりません。中国がボコバ氏を推薦すれば、ロシアは反対しないでしょう」
もはやボコバ氏の国連事務総長就任は既定路線にも思えるが、日本にとっては歓迎し難い事態。外交評論家の田久保忠衛氏は次のように指摘する。
「国連はもともと戦勝国が作った組織で、公平・中立なんて建て前に過ぎません。また、ボコバ氏にしても、現職の潘事務総長と同じく西側諸国が揃って出席を拒否した抗日戦勝記念行事に出席している時点で、中立であるべき国連の事務総長になる資格などありません。こうした人物が2代も続けてトップになるなら、もはや国連自体の存在意義が問われてしかるべきでしょう」
登録された「南京大虐殺文書」は11種類。全てに証拠価値がないことを立証すれば登録は覆せるというが、その道は険しそうだ。