【中国「スパイ容疑」で邦人拘束】国内の防諜も穴だらけだった日本の諜報活動の現実
公安調査庁(通称「公調」)のパンフレットを見ると、国の〈情報コミュニティ コアメンバー〉として、公調の他に、警察庁、防衛省、内閣情報調査室(内調)、外務省を列挙している。確かにいずれも情報部局を持つ機関だが、これらの組織の防諜・諜報活動は本当に役立っているのか。
***
「日本の各省庁の情報部員たちは、外国ではなく、隣の省庁が敵だと思って仕事をしている。そんな状況はすぐにでも改めなければなりません。インテリジェンスの分野に関して、日本は他の先進国より2周遅れで走っているようなもの。少なくとも情報の分野では、日本には中国と戦う能力はないのです」(京都大学名誉教授の中西輝政氏)
では例えば、公安警察と公調はいかなる関係にあるのか。公安警察の関係者は、
「公調の人と情報交換をすることはまずありません。何しろ、我々は若手の頃、先輩から“公調には気をつけろ。あいつらは我々が接触した対象者に金を渡して、警察に情報を流すな、なんてことを平気で言うやつらだから”などと繰り返し聞かされましたからね」
と話すが、対する公調の関係者はこう言う。
「警察が公調を蔑視するのは、僻(ひが)みからきている。公調は、金銭などあらゆる面で、警察より個人の裁量が認められる範囲が大きい。そうした組織風土のおかげで、共産党なら共産党、北朝鮮なら北朝鮮だけを何十年もウォッチしてきた情報の“職人”が生まれるのです。警察は異動が多いので、情報収集が断片的になる」
無論、情報活動の最前線に様々なつばぜり合いがあるのは事実なのだろうが、
「どこの省庁の情報部員も所詮はみんな素人。我が国には情報のプロフェッショナルがいないのです」
と、先の中西氏は嘆く。
「今回の一件は、素人が素人に“ちょっと見てきてよ”と依頼してしまった形。スパイなんて言える活動ではなく、学芸会レベル、スパイの真似事に過ぎない」
公安関係者は情報活動全般のことを“作業”といい、その過程で発生する想定外の事案を“事故”という。今回の件は“作業中の事故”となるわけだが、
「我が国は今後も“海外では諜報活動は行わない”という建前通りにやっていくのでしょうか。それは、成立した安保法制の方向とは矛盾する。海外でより積極的に活動しようというなら、そのための情報だって今までより必要になるのは当たり前です。これを機にプロフェッショナルな情報機関を作るべきです」(中西氏)