親子絶縁! 夫婦離婚! 危険すぎる「実家の片づけ」――辰巳渚(「家事塾」主宰)
■見ないで捨てた物に…
Eさん(40代)の場合は、もともと親子の関係は良好だった。思春期の子どもがいるとは思えないお嬢さんのような外見の女性である。
父親が亡くなったあと、東京郊外の一戸建てに残された母親はまだ70代。単身マンションに住むことを決め、家を売りに出した。
「母から電話があって、思いがけず土地にすぐ買い手がついたんだけど、あと2、3日で解体することになったと聞いて、驚きました。私たち子どももなんとか都合をつけて集まって、片づけに取り組みました」
あまりにも急だったために、全員で取り組んでも「整理というより見ないで捨てた物も多かったんです」というEさん。父を亡くした喪失感だけでなく、思い出のある家を失い、なおかつ父が大切にしていた本や家具を確かめもせず捨てた後悔で、今も胸が痛いと言う。
筆者は、物は持ち主の生きる価値観を表すものだと感じている。父親の本を見るとき、そこには父親がいる。同時に、父親しか知らない思い出が込められており、それは語ってもらわない限り、子には伝わらない。Eさんの悲しみは、受け継げなかった嘆きのように筆者には聞こえた。
失敗・後悔事例には、「高価な物を捨ててしまった」「大金がかかった」といった声は意外に少ない。実際は、ここまで見たように、親子親族の感情がもつれたり誰かが傷ついたりといった心の面の結果を、失敗や後悔と感じるものなのだ。心の痛みがある場合に、「なのに何万円も業者に払った」という費用面が失敗感に拍車をかけることになる。
こうして見ていくと、成功の秘訣は親子のコミュニケーションにあることもわかってくるだろう。
DさんやEさんと似た状況なのに、「満足でした」と笑顔で話してくれたFさんの話をしよう。
50代女性のFさんは一人で大阪中心部のマンションに住む。80代の母親は、単身郊外の実家に住んでいた。
母親が骨折して車いす中心の生活になったことから、Fさんは同居を勧め、母親も同意。じっくり必要な物を選ぶ体力も気力もなかったため、本当に大切な思い出の品と身の回りの物だけを持って引っ越した。
その後、家1軒分の片づけはFさんがすることに。しかし仕事で多忙なため、「業者に任せよう」と決心した。Fさんは母親と何度も相談して、業者に「写真と書類だけは置いておいてください。あとは全部処分で」と頼んだそうだ。4トントラック2台分で、知り合いからの紹介だったため処分費は十数万円で済んだという。
「思い出の和服も、1枚あればそれで十分なのね。よく言われることだけど、経験してみて、本当にそうなんだってわかったわ」
Fさんの成功の秘訣は、当事者である母親がしっかり納得したうえで、物に関して細かく選別しようなどと考えず、残しておくべき大切な物だけがあればいいと思い切った点だろう。
いま、Fさんは母親の車いすを押しながら近所をよく散歩するという。
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