溺死男児の風刺で炎上したあの「シャルリー・エブド」
「目的地はすぐそこだったのにね……」
マクドナルドのドナルドと思しきピエロが朗らかな笑みを浮かべ、歓迎するように両手を広げる。看板には「キャンペーン中! 1人分の値段でお子様セット2人分」の文字、視線の先には波打ち際に顔を埋(うず)める幼児――。
「不愉快」「恥を知れ」「人間のすることか」。仏週刊紙「シャルリー・エブド」に各国の新聞、雑誌、SNSから非難が殺到した。
「ギリシャに密航する途中で遭難し、砂浜に打ち上げられたシリア難民のアイラン・クルディ君(3)の遺体写真が話題となりました。その風刺画を表紙にしたためです」(国際部記者)
大手紙ル・モンドやフィガロは黙殺したが、名門週刊誌ロブスは「不快」と表明、カナダのトロント・サン紙が「子供の死をバカにしている」と書けば、インドのタイムズ・オブ・インディア紙は「幼児の死を酷評した」とし、告訴すると息巻くロンドンの弁護士グループも現れた。SNS上では「弱者をバカにしている」「同紙への尊敬の念が完全になくなった」等々と炎上状態は世界的に。
今年1月のイスラム過激派による同紙襲撃事件に際しては、暴力に屈せず、言論の自由を守る意思表示として「Je suis Charlie(わたしはシャルリー)」がキー・フレーズとなったが、今回は否定形の「Je ne suis pas Charlie(わたしはシャルリーではない)」が合い言葉となる始末だ。
同紙編集部とも親交のあるフランス人画家は言う。
「フランスの風刺画は必ずしも笑いを目的としていません。幼児の遺体写真が世界に衝撃を与えたように、人々に衝撃を与えるのもまたフランス革命の頃から続く風刺画の伝統のひとつ。今も襲撃事件のトラウマに苦しむ画家は、幼い子供が死んでようやく難民の運命に向き合った我々が、いかに偽善的か描いたのです」
ならば炎上も思う壺か。世界に冷水を浴びせたのも、週刊紙を炎上させたのも、その激情の引き金が幼子の死であるのは変わらない。