“エヴァ”作詞家が語る「『残酷な天使のテーゼ』の印税はトルコに消えた」

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 元ダンは18歳年下のトルコ人。幸せだった時期も、もちろんあった。
 けれどももう受け入れることは無理。私にとって、彼は過去にしかすぎない。

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【失ったお金は3億円】「外国人年下男」にハマった私たち――岩井志麻子×「残酷な天使のテーゼ」作詞家・及川眠子

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 離婚しろ離婚しろ離婚しろっ! と、占い師をやっている友人からしつこいくらいに言われていた。彼は絶対に眠子さんから離れていかないけど、2014年の1年間は「離婚してもいいかな」という気持ちが芽生える。それを利用しろ。じゃなければ一生付きまとわれて、ひどい苦労を背負うことになる、と……。

 私と元の旦那、略して元ダンがまだ仲良かった頃から、彼女は会うたびにそう繰り返した。

 まさか去年の年末に駆け込み離婚することになろうとは。そして、彼女の言うとおり「ああ、離婚して良かったぁ」と心から思える日が来るとは。

 よくある言い方ではあるけれど、人生なんてわかんないもんだなぁ。

間違いの根源

 私と、18歳年下のトルコ人である元ダンがイスタンブールで知り合い、付き合いを始めたのは2001年。結婚という形を取ったのが2006年。当初は結婚する気はまったくなかったが、日本への入国のたびにイミグレーションで止められ、一緒に何時間も調べられることに辟易して、だったらちゃんと結婚してビザを取ってやろうじゃないかというのがきっかけ。正直なところ、彼と一生添い遂げるなんて決意も覚悟もなかった。

 しかし、長年一緒にいればそりゃ情も湧く。

 出会った当時、彼は無職だった。地方都市でセメント会社を経営していたが、身内に騙されてすべてを失くし、失意のまま家族がいるイスタンブールに戻って、兄が経営している店で手伝いをしていた。私がトルコを旅行したとき、たまたまその店の隣のホテルに宿泊。何度か顔を合わせるたびに話をするようになり、その1年後から付き合いが始まったのである。

 今思えば、経営者として詰めが甘かったから会社を取られたのだけど、そのときはただ可哀想だ、不運だとしか思えなかった。だから「仕事をしたい」という彼の欲求に対して、応えられる部分では助けてあげようと思ってしまったのである。

 それがすべての間違いの根源。

 もともとが自信過剰の男。自分は誰よりも賢くて仕事が出来る男だと信じて疑わない。とにかくいろんなことに手を出しながら、そのほとんどが失敗に終わった。だけど全部他人のせい。反省しないし、とにかく言い訳を繰り返す。今回はタイミングが悪くて失敗したけど、次回は絶対に大丈夫。なーんていう言葉を信じた私がいちばんアホである。

 何かを始めるためには、もちろん資金が要る。そのたびに金を用立てた。仕事以外でも、兄の裁判費用や甥や姪の学費に病院代、義父の葬式代、家のリフォーム代などなど、もう思い出せないくらい。あ。そういえば、イスタンブールに家も買ったわ。帳簿に記載されていない分を含めると、13年間で約3億円。よく稼いだなぁ、私。えらいえらい(と言ってる場合じゃないか……)。

 で、5年前に日本で旅行会社を設立した。

 最初はイスタンブールで小さな旅行代理店を立ち上げて、まぁその頃は本人もちゃんと頑張っていたので、少しずつ事業を拡大。そんなとき仕事で訪れたカッパドキアという世界遺産地区で、たまたま洞窟が売りに出ているのを知り、それを購入することに決めた。

「ワタシの夢はホテルを経営すること」

 元ダンのその言葉についほだされてしまったというのもあるが、作詞家生活四半世紀にして初めての年収1億円超え(後にも先にもその年のみだった)。つい気持ちが大きくなってしまったんだなぁ。

 念願のホテルも出来るし、日本からもっと送客を増やしたい、会社を大きくしたいというので、日本支社の設立となったワケだ。

 ちなみに、その洞窟ホテルは建設途中で資金が枯渇して頓挫。しかも世界遺産を派手にぶち壊したということで裁判中。私を騙して委任状にサインさせたものの売ることも出来ず、完成及び開業にはほど遠く、そのままの状態で現在は放置されている。

 日本の旅行会社は、ちょうど訪れたトルコブームに乗っかり、瞬く間に送客数を増やしていった。最盛期には、イスタンブールだけではなくカッパドキア、そしてエーゲ海地方のクシャダスという街にも支店をオープン。さらには2軒のホテルの経営権を取得。スタッフも増やし、送迎やツアー用のバスも買って、どんどん会社を大きくしていった。

 たぶん彼の金銭感覚が狂っていったのはこの頃から。そして、これは離婚後に知ることとなったが、見境なく女に言い寄るようになったのもこの頃である。「今だから言うけどね」と友人や仕事関係の人たちが、彼が私に隠れてやっていたことを、離婚後にいろいろと教えてくれた。その話を聞くたびに、もううんざりするだけである。

 私たちは、日本支社を開設した頃にはすでにセックスレスだった。彼の夢を叶えてあげたいという思いもあったが、会社設立や洞窟購入には私の後ろめたさが発端となっている部分がある。

 最初から彼が欲しいものをあげてきた。私よりうんと若く、働く気力もあり夢も持っている。そういう男の望みを一つ一つ実現していくことに、一種の自己満足に似た気持ちがあった。言い換えれば、自分の手で男を育てているというような感情。経済的にも精神的にも自立した女の、不遜で贅沢な遊びみたいなものである。

 また、彼の方もこちらの気持ちに付け込んで、一つ希望が叶うたびに次はもっともっとという願いが湧いてくる。

 私があげた、というより貸したお金。必ず返します、と言いながら1円も戻っては来ない。それどころか、何だかんだと理由を付けてお金を引き出そうとする。それが叶わないと、時には泣いたり怒ったり脅したりもした。

 もう疲れ果てていた。毎日のようにお金のことでケンカ。日本とトルコ、離れているときでさえ電話で怒鳴り合う毎日。だから逃げようとした。べつに愛してもいなかった若い男を利用して。とにかく彼から逃げたかったのだ。

金と若い女

 でも逃がしてはくれなかった。今まで以上に私に対する執着が強くなり、さらには逃げようとしたことをしつこく暗に責めるようになった。

 その行為を私は愛と捉え、もう一度彼とやり直すために取った方法が、洞窟の購入と日本での会社設立。男女間の愛情はすでにない。妻というよりも共同経営者であるという意識が強く、さらには保護者だった。

 あのとき別れていれば……と思うときが多々ある。おそらくどんな方法を取っても、きっと彼は私を離さなかっただろうけど。

 うまくいってたはずの旅行会社の経営が躓き始めたのは2年前。旅行業の最もピーク時にトルコ国内でのデモ騒ぎと、カッパドキアでの日本人観光客の殺人事件が起きた。その出来事を機に観光客が激減。

 いきなり大きくした事業。夏にはたくさん送客が見込めるから、それで返済しようと計画して借りた金。増やしすぎたスタッフ。何もかもが噛み合わなくなっていく。資金繰りに追われ、同時に金銭感覚が麻痺していった。

 旅行業がうまく軌道に乗ると、それなりの大きな金額が動く。しかし、その9割は仕入れ代金で、たとえばホテルやガソリンスタンドやスタッフの給料などに払わなければいけない。たくさん金が入るほど、出ていく金も多い業種なのである。

 そこをはき違えてしまった彼は、自分がとても金持ちになった気分になり、派手に金を使い始め、周囲を牛耳ろうとしていろんな物を買い与えたりしていたようだ。

 もともと見栄っ張りでペテン師のような性格。それも理解して、私は私なりのモラルとルールで彼を押さえ込んでいた。だけど私にも仕事がある。さらに、彼が日本にいないあいだは、私が代わりに旅行会社の経営を見なければいけない。いつも彼を見張っているわけにはいかないのだ。

 去年2月、彼がトルコに帰国した。いつもは1ヶ月、長くても2ヶ月後くらいにはまた日本に引き返して来るのに、裁判の係争中であるとか銀行からの融資の返事を待っているとか、いろんな理由を付けて日本に来なかった。どうやらそのあいだに様々な変化が訪れたみたいである。

 金に狂ってしまった男。そいつをちやほやして、金を巻き上げようとする周囲の連中。そんなとき、必ずと言っていいほど現れる、妻とは真逆の若い女。

 あとで人から聞いた話では、元ダンの実家の近くに住んでいた子らしい。どうやら彼のことを「金持ちで有能な経営者」だと信じ込んでいたようで、どうやって奪ってやろうかとずいぶん前から虎視眈々と狙っていたとのこと。もちろん、私のことも知っている。

「猫(私の名前の眠子に引っかけている)がいない間に、美味しいものを奪ってやった」

 彼女の勝利宣言が、元ダンとのツーショット写真と一緒にインスタグラムに残っている。

 9月にビザの更新のために3日間ほど戻って来たときには、すでに彼女との関係は引き返せないものになっていたのだろう。いきなり「子供が欲しい」と言い出した。今さらそんなことを言うのは卑怯、そんなに子供が欲しければ貧しい家の子を引き取って育てるという方法もあるよと言うと、自分の血が入った子供じゃなければイヤだと言う。

「たとえば、あなたとは法律上の夫婦を続ける。でもワタシたちはすでに体の関係がない。だからトルコで別の家庭を持って子供を作ってもいいだろうか」

 そんなことを訊くから、ダメに決まっているじゃないかと答えた。じゃあワタシたちは離婚して、だけど会社のパートナーとして付き合っていくというのはどう? とさらに訊くので、私の本業は音楽、でも妻だからという理由でのみ、あなたの仕事をサポートしてきた。もし夫婦でなくなったら仕事の関係も終わり。

 私のその返事により、おそらく彼の腹が決まったのだろう。そこから私をいかに騙して金を引き出し、会社が背負った債務を私に押しつけるか、その画策が始まった。同時に私にばれないように、その女との結婚に向けて着々と準備を重ねていったようだ。

 まず私に離婚を突きつけた。今までは何があっても絶対に自分からは言い出さないと誓っていたのに、会社の問題があなたに行くから、あなたに負担をかけたくないからなどの理由で、離婚してほしいと言い続けた。また、手形が切れず不渡りを出す、勾留されるかもしれないなどの理由で、日本から金を送らせようとする。会社の収益よりもはるかに大きな金額。その話を信じた私は、銀行や友人にまで借金をして金を送り続けた。私が背負った借金の総額、現在7000万円。

 最後に元ダンに会ったのは去年の12月中旬。その頃にはもう完全に顔つきや人格が変わってしまっていた。こんな笑い方をしたっけ、というような卑しい表情。ワタシは会社の問題のせいでずっと精神科に通っていますと、大量の薬を目の前で飲んで見せた。おそらく向精神薬だったのだろう。その副作用が見て取れた。突然怒ったり泣いたり感情が安定しない。発言がコロコロ変わる。正直そばに寄るのさえ怖いほどだった。

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