【がん診断】世界から注目される「町工場」の親子が作った「プロテオチップ」(4)

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 親子3人が営む小さな町工場。医療の分野とは無縁で、がん研究など全くの門外漢。むろん公的支援も一切なしで、運転資金の捻出(ねんしゅつ)や経費節減に四苦八苦。そんな“零細家内工業”が開発した、史上初のがん診断ツールが世界を驚嘆させた。

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世界初の“がん判別チップ”を開発した長谷川親子

 神戸のバイオベンチャー「マイテック」が製造した、がんの有無を判定するバイオチップ、その名も『プロテオチップ』は今後、がん治療のあり様を根本から変えるかもしれない。

「『プロテオチップ』は、たった一滴の血液を用い、わずか3分でがんの有無を完璧に判定できるものです」

 と胸を張るのは、同社の長谷川克之氏(55)だ。そのメカニズムとはいかなるものか。

 がん細胞が出現すると、体の免疫細胞はこれに反応し、攻撃する。その際、がんの死骸の一部である関連物質「ヌクレオソーム」が血中に溶け出す。長谷川氏らはこの物質に着目した。

「私たちは、『過酸化銀メソ結晶』という、物質を光らせる効果を持つ新たなプラズモン物質を作り出しました。この物質にはヌクレオソームを引き寄せ、結合する効果があります。次にやはり新規に『量子結晶』というプラズモン物質を製造した。これは金属のようにキラキラと光を反射する性質を持ち、ヌクレオソームの自家蛍光を増強させる効果がある。この2つの要素を掛け合わせた物質を、チップの銅合金の部分に塗っているのが、プロテオチップです。この部分に被検者の血清を塗り、紫外線を当てる『蛍光顕微鏡』で覗くと、ヌクレオソームが結合していれば、強く光を発します。つまり光れば、その人はがんに冒されているということです」(同)

■「がん死ゼロ」時代の到来

 長谷川氏が、義母の会社を受け継ぎ、金属加工会社を創業したのは99年のことだった。社長には妻が就任。食品に残る農薬や空気中の環境汚染物質などを検出するバイオチップを製造していた。転機が訪れたのは、3年前。昭和大学江東豊洲病院の医師が、がんを判別するチップの共同研究を持ちかけてきたのだ。人手が足りないため、長男の裕起さん(28)を呼び寄せ、親子鷹の研究がスタートした。

「チップは昨年、完成しました。昭和大学からがん患者と健常者の血清を20人分、提供してもらい、検査を行った。すると、がんの有無を100%、見事に判別できたのです」(同)

 昭和大学から提供された血清は、胃がん、大腸がん、すい臓がんの3種類のがん患者のもの。これらのがんについては、直径0・1ミリ以下の「ステージ0」の段階で発見できることが証明できた。マイクロRNA検査同様、早期発見が困難なすい臓がんも超早期に捕捉することが可能なのである。

「理論上はどのがんにも有効だと確信しています。今はまだ、がんの有無しか分かりませんが、簡易に受けられますので、がんのスクリーニング検査として活用できる。まず最初にプロテオチップで検査し、陽性となれば精密検査を行うという流れができれば、がんの超早期発見は画期的に進化するでしょう。来年中には実用化でき、一般の病院でも数万円で検査が受けられるようになると思います」(同)

 今や世界中から問い合わせが殺到しているという。この『プロテオチップ』について、山野医療専門学校副校長で医学博士の中原英臣氏は、

「原理的には理にかなった検査法だと評価できます。まだ20例しか実績がないので、より多くの医療機関に実験してもらい、エビデンスを積み重ねて信頼性を高めてほしいと思います」

 そのうえで、

「マイクロRNAやこのチップなど、どれも簡便な血液検査で超早期にがんの有無が判別できる。健康診断の一項目に【がんの有無】という欄が加わるのも、そう遠い先ではないでしょう」

 この超早期発見・治療こそ、「がん死ゼロ」時代を実現し、実質的ながん撲滅をもたらす最短のロードマップになるにちがいない。

【特集】「がんの死亡がゼロになる 『超早期発見』の革命的最新診断」より

週刊新潮 2015年9月24日菊咲月増大号掲載

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