情報戦で劣勢の「六代目山口組」の激白5時間 「カネ、カネ、カネ」だから叛乱は事実か?

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 六代目山口組体制に不満を募らせ、ついに謀叛を起こした有力組長らの処分から間もなく1カ月。雑誌などには「抗争」、「激震」、「組長の首」といった物騒な文字が躍るが、実際は何が起こっているのか。六代目山口組の直系組長4人が初めて明かす裏切りの内情。

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山口組六代目組長・司忍

「メディアは今回の件を分裂と書くし、一般の方から見ても分裂に見えるんかもしれへんけど、実は分裂でも何でもない。単なる謀叛で、謀叛を起こしたモンが絶縁や破門処分になっただけです。徒党を組んで神戸山口組を名乗り、菱の代紋を勝手に使っとるようやけど、そんなことこっちは認めておらんし、いわば似非(えせ)山口組やな。一和会の騒動とは違うんですわ。あの時は、四代目の親分の盃(さかずき)を飲むの嫌や言うて出て行った。これは分裂ですやん。新しい親分に付いていけへん、言うて出て行ったわけやから。今回は司の親分の盃飲んだモンが、その盃を返すことなくほったらかしにして出て行っとるんやから、これ、謀叛ですやんか。しかも、これは逆縁と言うて、我々の世界では犯罪。犯罪の中でも、万死に値するもんです」

 そう語るのは、指定暴力団「山口組」の直系組長である。山口組が、有力直系組長だった井上邦雄・山健組組長や入江禎・宅見組組長、寺岡修・侠友会会長など13人を絶縁、破門処分にしたのは8月27日。そして9月5日、13人は神戸市内の山健組本部に集まり、「神戸山口組」の発会式を行った。井上氏が山健組と兼任する形で組長に就任、入江氏が副組長、寺岡氏が若頭となった。

 本誌(「週刊新潮」)は山口組と神戸山口組、双方に取材を申し込んだ。結果、山口組は直系組長4人が揃って取材に応じたが、神戸山口組は、「取材はお断りさせていただきたい」とのことだった。

「我々の世界の根本に何があるかというと、盃事なんです。汚い世界のたった一つキレイなところ、と言うてもええかもしれません。今回、彼らは我々の世界の根本にあるルールを破った。その時点で、向こうに百に一つの言い分があったとしても、それは通らない、ということなんです。

 山口組を含め、この業界では、一切の権利、一切の縄張りは親分のモン。先代と代替わりした時には、先代のカマドの灰まで当代のモンなんです。山口組の親分は、ええモンも悪いモンも全部引き継ぐ。その親分に白い物を黒や言われても、それは認める言うて我々、盃飲んどるんです。そんな大事な盃をほったらかしにして出るなんて、絶対にやってはならん。彼らには山口組を名乗る資格はない。

 しかも、彼らの中核、中心人物は今の体制を推し進めてきた人間ですよ。例えば、総本部長やってた入江さん。彼、まともなこと言うてましたよ。お前の若い衆は、お前のモンやないんやぞ、と。親分から預かっとる若い衆やぞ、と。そう言うとった張本人が今回みたいなことしてますねん。前出てきてきちんと説明してもらわんと。

 方向性が違うと考えたならば、なぜ彼らは中にあって改革しなかったんですか? 一回でも彼らが腹切る覚悟で親分に諫言しましたか? それが出来ない言うて、オレもう知らんわ言うて、徒党組んで出て、これが通ると思います? そら無理でしょう。中で何もせずに、逆縁を犯してまで勝手に出たというのは、許されないことです」

■抗争になりようがない

 9月5日、神戸山口組が発会式と同時に発表した「御挨拶」と題する文章には、以下のように書かれている。

〈現山口組六代目親分に於かれては表面のみの「温故知新」であり中身にあっては利己主義甚だしく歴代親分特に三代目親分の意を冒漬する行為多々あり此の儘見て見ぬふりで見過ごしにする事は伝統ある山口組を自滅に導く行為以外考えられず我ら有志一同の者仁侠道の本分に回帰致し歴代山口組親分の意を遵守する為六代目山口組を離脱致し新たなる「神戸山口組」を発足し歴代親分の訓育と魂魄を忘失する事なく心機一転肝刻致し新しい神戸山口組に身命を賭す覚悟であります〉

「我々からしたら、あんなわけのわからん回状出して、我々の親分に対する思いを逆なでしとる。あれ、全国の山口組以外のモンが見たら“ああ、この程度か。山口組の執行部におったもんの考えってこの程度か”と思うやろうし、我々も恥ずかしいし、カーッともくる。でも、それで鉄砲でも持ちだしたら、一発で特定抗争指定暴力団に指定され、全国の事務所は閉鎖ですわ。向こうはそれを狙っとる。あるいは、そういうことを見越して、彼らは出て行ったんでしょう、今回。

 だから、向こうの挑発に山口組は一切関わるな、との通達が徹底されとる。窓ガラス撃たれたら、窓ガラス代えたらしまいですやんか、と。マスコミは鉄砲をバンバン撃つんじゃないかと煽りますが、そんなことは起こらへんのです。ピストルは撃っただけで10年、人に当たったら20年、相手が死んでもうたら無期ぶちこまれるんでっせ。後、誰が面倒見てくれるゆうんですか。

 大阪のミナミが危ない、なんてマスコミは嬉しそうに書きますけど、出て行った側ときっちり棲み分けができてますから、抗争になりようがない。また、組の電話はあけたままにしてある。“若い子が相談にきたら聞いてあげて”というのが親分の考え方です」

 実際、9月1日、神戸の山口組総本部で開かれた定例会で配られた司忍組長の手紙には次のように書かれている。

〈離脱者の多くから心情を訴える相談が多数あると聞くが、罪のない若い者、この人達に対しては非を咎めることをせず、寛容な気持ちで相談に乗ってあげて欲しい。今、様々な形での噂、流言飛語が飛びかっていると聞くが、真実は皆が一番知るところである。軽挙妄動を慎み、全組員が連絡を密にして平常通り斯道に励み、この困難な時代にこそ男としての真髄を極めることを希望する〉

「歯がゆいのは、向こうに情報のコントロールをうまくやられてしまったことやね。出て行った正木さん(年男・正木組組長)いうのが元々広報担当やっとったし、喋りもうまい。彼だけやのうて、警察通じても向こう側からの情報を出され、あることないこと書かれた。今、いろんな雑誌読んだら司の親分のこと、すごい悪いように思うわな。

 彼らは、逆縁というやってはいけないことやって出て行った。必死に情報を出さなアカン、自分らを正当化せなアカン立場やというのがよう分かっとるんでしょう。また、彼らとしては何か出ていく大義を作らなアカン。それで、司の親分が山口組の総本部を名古屋に移そうとしていた、なんていう作り話をするわけです。こんなんわざわざ否定するのもアホらしいようなありえへん話です。司の親分は一回もそんな計画を口に出したことはないし、そんな考えが頭をよぎったこともないでしょう。だいたい、今は暴力団排除条例とかのせいで、近所に病院や学校がある場所には暴力団の事務所を置けんのです。だから、弘道会の本部に山口組の本部を移転するなんて、そもそも無理なんや。出て行った彼らもそれは分かっているのに、ペラペラそういうウソを言いふらすんですわ。彼らが新しい組織の事務所を淡路島の侠友会の事務所に置こうとしているのは、その周辺に条例にひっかかりそうな施設がないからです。

 出て行った人らは、司の親分のことを“カネ、カネ、カネ”の金にがめつい人間のように仕立てあげたいようやけど、これも全然違います。我々直系組織が支払う会費は、100万円前後です。まず、これらは山口組を運営するために必要な金であって、司の親分の懐を豊かにするためのものじゃないのは言うまでもありません」

■異変の兆候

「出て行った人らは、この会費の額が高いと言っとるようやが、山健組は山口組本体より高い金額の会費を集めています。同じように宅見組も高い会費とってますよ。

 こちら側は“カネ、カネ、カネ”の守銭奴みたいな言い方をされていますが、司の親分の体制になってから、引退する親分に元々は1億円の餞別を払っとったんです。直系組長が100万円くらいずつ分担拠出するのはその時ですわ。ただ、親分の引退が相次いで、その1億円がなかなか支払えなくなり、金額は5000万円になり、ついには2000万円になってしまいましたが……。

 ミネラルウォーターや日用雑貨を月額50万円以上、強制的に売りつけている、というのもウソですわ。水、買うてるのは事実やけど、組員の数に応じて、せいぜい月に5万円分から20万円分くらい。組員が100人超えるとこで20万円てとこやろ。

 水の事業をやっとるのは、神戸市にある『アトレジャパン』いう会社で、元々、これを作ったのは今回、出て行った中の1人です。この会社は、我々が『会館』と呼ぶ葬祭場を持っているんやけど、毎月思たように葬儀もないし、組葬もできない。それでも維持費はいるし、社員の給料も固定資産税も払わなアカン。それで始めたのが、組員に水とか雑貨を売る事業ですわ。

 そもそも、出て行った彼らは、組員に水を売りつけてなんやとか言うとるけど、山健組は自分とこで水作って自分とこの組員に売ってますからね。どの口が言うねん、いうことです。

 何度も言うようやけど、山口組本部の名古屋移転の話なんてあらへんし、司の親分が金にがめついなんてこともない。それから水の話も今回の謀叛には関係ないんです」

 ではなぜ今回の裏切りは起こったのか。この人がいれば謀叛は起こらなかったのではないか――として直系組長はある人物の名前をあげる。恐喝の罪で懲役6年の刑が確定し、昨年6月、刑務所に収監された高山清司若頭である。

「頭(かしら)(高山若頭)の事件は、頭本人も俺らも絶対無罪になる思うてたけど、実刑打たれてしもた。入江さんは若いモンをもっと直参に上げろと上から言われて、このままやと宅見組はバラバラにされてしまうんやないか、と考えてアタマがグニョグニョになったんやと思いますわ。で、1人で考えて考えて、今回、頭がおらん時にこんなことした。頭がおったら絶対に無理です。

 でも、今回の件でヨーイドンから謀議しとったんは、井上さん、正木さん、池田さん(孝志・池田組組長)の3人やろう。寺岡さんは舎弟になってからこの3人に加わり、そこへ入江さんも入って行った。

 異変の兆候はあったんです。舎弟さんにも総本部の当番があるんです、水曜日に。当番といっても、2階の応接間でテレビ見てタバコ吸うとるだけですけどね。最初はそれぞれ1人で来とったんですが、池田さんが来る時に正木さんが来る、正木さんが来る時に寺岡さんが来る……。入江さんや井上さんがそこに顔を出すこともあった。で、みんなでチンチンになって(熱くなって)たんですわ。

 そうやってずっと燻っとったわけやけど、まず8月12日、山健と別の組が20団体ほど連れて出るという怪文書が回っとるいう情報が流れた。この時は一旦、ガセネタと判断したんやけど、21日にはもっとはっきり名前が分かってきた。で、26日に“27日に緊急執行部会をやる”と言うたら、井上さんと入江さんが、行きませんと伝えてきたんや。そんなことがあって、27日に向こうは慌てて盃しよったんですわ」

■金銭に関する資料?

「出て行ったモンは確かに悪い。でも、彼らを追い詰めたことは我々も考えて反省しなければならない。

 しかし、出て行った彼らは、今の山口組は弘道会支配で人事も何もかも決めてる言いますけど、あの人らが出る前までの執行部の顔ぶれを見ると、圧倒的に山健組、宅見組出身が多いですよ。彼らは思い込んでしまいよったんです。司の親分、高山の頭、竹内さん(照明・弘道会会長)、このラインで決まってもうてる、と。もう決まっとるなら、応援することもないやろ、と。山健組に非ずんば山口組に非ず、と言われた時代があって、山健の枝の葉っぱの先の毛虫みたいなヤツまでエラそうにしとった。で、今度は自分らの思い通りにならんから言うて出て行ったら、そらあきませんわね。

 でも、そもそも竹内さんが八代目になる、なんてことが今から言われることがおかしい。山口組の組長は生涯現役で、基本的には終生親分であり続ける。まだ親分がおるのに次の話をすること自体がありえへんわけやけど、本来は長男である頭が次を取る。高山の頭は、竹内さんにとっては親分やから、その人を七代目に推すのは当たり前」

 9月5日に行われた神戸山口組の発会式に際しては、“サプライズ”が1つあった。住吉会幸平一家の加藤英幸総長が姿を現し、“発会式の見届け人を務めた”と見られているのだ。

「加藤さんの件については、我々はこう聞いています。以前、加藤さんが体調を崩している時に井上さんがお見舞いに行ったことがあった。加藤さんが、その返礼に伺いたいが、いつがいいか、と聞いたら、井上さんに9月5日に来てください、と言われて行った、と。

 主に出て行った側がワーッと情報を流すから、情報が錯綜しているように見えるかもしれませんが、錯綜しているんじゃなくて踊らされているだけです。例えば、出て行った側に山口組の会計に携わっとった人間がおって、資料をいろいろと持ち出していて、当局がそれをもとに脱税などで捜査を始める、といった話が流れとります。あんまり追い込むと資料もってチンコロ(密告)するぞ、という我々に対するプレッシャーなのかもしれませんが、そもそも、金銭に関して詳細に記した資料自体が山口組には存在しませんよ。あの人らが持ち出した言うたら、事始めとかの儀式に使う金の盃と金の茶瓶を勝手に持って行きよりましたわ。

 彼らは自分らを正当化するためにチラシ撒いてみたり、滅茶苦茶なことが書かれた文書を出してみたりしとるようやが、それを見て日本中のヤクザがバカにすんなと思ったはずですわ。盃がまだあるのに、親分の悪口雑言を並べ立てるなんてとんでもない、と」

■トロイの木馬

「我々は、出て行った側の人数を1000人弱と計算しています。山健組が600人、宅見組が300人、あとは数人から数十人の組やからね。で、向こうが似非山口組を立ち上げてから2週間ちょっとですが、山健組から150人、他団体から50人がすでにこちらに戻ってきています。自分とこの親分がやっとるのは大義のないことや、こんなもん逆縁や、あるまじき行為や、ということで続々と戻ってきとるわけです。戻ってきた中に向こうのスパイがおって、トロイの木馬みたいなことになったら困りますから、きっちり身元を調べた上で戻す。戻ってきた者は、山口組のいろんな組織に振り分ける。近々、戻ってきた者がどこの組織と縁組した、ということが分かる書状を回す予定になってます。当初は櫛の歯が抜けるようにこちらに戻ってきとったが、今では入れ歯がポンて取れるような感じやで。

 そんな今の状況も彼らにとっては誤算なんやろうけど、彼らは元から計算を間違うとった。七十数人おった直系組長のうち、40人ほどが行動を共にし、全体の人数も数千人になると思うとったんでしょう。でも、フタを開けてみれば直参はたった13人で、全部で1000人弱。今ではそこからさらに減って、全体で800人もいない。

 今後、向こうの組織を出る者はますます増えていって、勝手に自然消滅しよると思いますよ。今、井上さんは山健組の組長と、新しく作った組織の組長を兼任しとる。井上さんは山健組の四代目組長やから、五代目を誰かに譲って、自分は新しい組織のトップに専念すべきですやん。なんでそれをすぐにせえへんのか分かります? それをしたらワーッと人が出て行ってしまうからです。井上さんが、山健のトップから、今度新しく作った組織のトップになる時、元々あった子分たちとの盃は水に流すことになる。で、新たな組織のトップとして盃をせなアカンのですが、その盃を受けずにこっちに戻ってくる者がようけ出てくることになるんですわ。

 盃直しをきちんとやっとらんから、あの組織は妙なことになっとる。新しい組織の若頭になった寺岡さんは、山健組の若頭と同格になる。一般の人には分かりにくいかもしれませんが、これはこの世界ではすごくおかしなことなんですわ。山健組の若頭いうたら、山口組の三次団体の組長です。山口組の執行部メンバーまでやった寺岡さんと、三次団体の組長が同格とは、誰が見てもおかしいでしょ。このままずっと同じ状態で行くわけにはいかんが、盃を直すと人が出て行ってしまうからできへんわけです。

 あと、向こうの組織にとって頭が痛い問題は他にもある。抗争事件でジギリを掛けて(組織のために身命を賭けて)、まだ刑務所から帰ってきていない者がおるんです。彼らは山口組のために自分の体を賭けた。それやのに似非山口組に迎えられたら、帰ってきた人間、どない思います?

 最後に、世間一般の方々には、今回の件でお騒がせして申し訳ありません、と謝罪させていただきたい。こういうことになった原因がどこにあるのかを検証し、今後は世間に迷惑をかけることのないようにしていきたい、と考えております」

週刊新潮 2015年10月1日号掲載

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