【がん診断】ノーベル賞技術「テロメスキャン」はPET検査で異常なしの極小がんを捉える(3)
“幽霊の正体見たり枯れ尾花”とはいえ、目に見えない恐怖が何より我々を萎縮させるのは事実。知らぬ間に体内で増殖し、突如として生命を脅かすがんもその例に漏れない。だがいま、ノーベル賞を獲得した技術が病魔という名の“幽霊”を捉えつつあるのだ。
***
がん細胞だけが浮き上がる(中央は藤原教授)
早期発見の“切り札”とされるPET検査でも、がん細胞が5ミリ程度に成長しなければ探り当てることはできない。そうしたなか、注目を浴びているのが“テロメスキャン”なる薬剤だ。
岡山大学の藤原俊義教授(消化器外科)は、「がんを目視したい」との願いが、開発のきっかけになったと明かす。
「私たち外科医が、がんの手術で最も頭を悩ませるのはがん細胞がどこまで広がっているか分からないことです。たとえ手術しても、がん細胞が残っていれば転移の惧(おそ)れがあるため、患部周辺を大きめに切除せざるを得ない。ただ、切り過ぎてしまうと、今度は合併症を招きかねません」
患者のリスク軽減のためにも、医療現場ではがんを“視認”する手立てが模索されてきたが、その決定打と呼べそうなのがテロメスキャンなのだ。
藤原教授らはこの薬剤に先立ち、がん細胞を死滅に導く“テロメライシン”という画期的なウイルス製剤を開発している。それに緑色蛍光タンパク質“GFP”を組み込んだものがテロメスキャンである。
■100%切除
藤原教授が続ける。
「テロメライシンは細胞ががん化した時に活性化する。それに伴ってGFPが発光すればがん細胞の広がりを確認できると考えたのです。実際、マウス実験で原発部分にテロメスキャンを注入するとがん細胞だけが発光した。結果、100%切除することに成功しました」
GFPを見出したのは下村脩・ボストン大学名誉教授で、その功績が評価され、08年にノーベル化学賞を受賞している。ちなみに、この薬剤の語源となり、がんの悪化に深く関わる“テロメラーゼ活性”の発見もノーベル医学生理学賞の栄誉を受けた。
2つのノーベル賞に支えられた新薬は、すでに医療機関でも活用されている。
「PET検査で陽性反応が出た患者の術後管理のために導入したのですが、その精度に手応えを感じてがん検診にも用いています」
とは、野口記念インターナショナル画像診断クリニックの佐藤俊彦院長。まだ臨床試験の段階なので保険も適用されず、検査費用は13万円に上るが、テロメスキャンによるがんの早期発見に懸ける思いは強い。
「過去に、PET検査でステージ1の肺がんが見つかった女性がいました。ごく初期の段階だったので5ミリほどのがん細胞を切除すれば完治できると思われたものの、術後3カ月もしないうちに体内のあちこちで急激に転移が進んでしまったのです」
その原因はCTC(血中循環がん細胞)とされる。がんの原発部分から遊離して血中を循環する微小ながん細胞のことだ。CTCが血中にばら撒かれると、他の臓器に転移する危険性が高まる。
「テロメスキャンはPET検査の検出限界である5ミリ以下の超早期がんを見つけたり、CTCの有無から転移するタイプか否かを見極めることも可能です。確定診断と呼べる段階ではありませんが、PETと組み合わせれば非常に有効な検査法と言えます。超早期発見ができると経過観察の参考になりますし、免疫療法を試す選択肢もある」(同)
いち早く“正体”を掴んで、がんを“枯れ尾花”扱いしたいものだが……。