【がん診断】唾液の成分から「大腸がん」「乳がん」「すい臓がん」を探り出す方法(2)
首を傾げたくなる気持ちも分かるが、決して“眉唾”な話ではない。唾液によるがん検査は、実用化に向けた最終段階にあるのだ。費用や手間が省けるだけでなく、これまで至難の業とされてきたすい臓がんの早期発見についても、マイクロRNAと同様に期待が高まっているという。
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慶応義塾大学の杉本昌弘特任准教授
確かに、人間ドックに1日を費やすどころか、注射もバリウムも必要ないとなれば有り難い検査に違いはない。だが、そもそも本当に唾液でがんを発見できるのか。
慶応義塾大学先端生命科学研究所の杉本昌弘特任准教授が解説する。
「カギを握るのはメタボローム解析という先端技術。DNAやタンパク質よりも小さな代謝物質を分析して、がんにしか起きない変化を調査します。がん特有の代謝物は細胞から血液を通じて唾液へと流れ出る。そのため、唾液による検査が可能なのです」
実際、乳がんや大腸がん、口腔がんなどについては、すでに高い有用性が認められている。
「現在は山形大学や東京医科大学をはじめ、全国の多くの大学病院と共同研究を進め、がん以外にも様々な病気を検査できないか調べています。口から離れた臓器の代謝異常が唾液に出るメカニズムも分かってきた。精度を高めて、実用化に向けた準備をしています」(同)
■スマホでがん検査
特筆すべきは、発見時に8割以上がステージ4で、ほとんどの患者が“手術適応外”とされる、すい臓がんの判別精度だろう。2010年に行われた慶大と米・UCLAとの共同研究では、健常者や他のがん患者と、すい臓がん患者との違いを99%の高確率で見分けることができたという。
唾液検査の様子
来年4月からこの“唾液検査”をスタートさせる予定の、砂村眞琴・大泉中央クリニック院長が言葉を継ぐには、
「すい臓がんをステージ3までに発見して、外科手術可能な患者の割合を5割に上げることが目標です。また、敬遠されがちな内視鏡検査の前段階として大腸がんスクリーニング検査が可能になります」
検査方法も単純明快だ。患者から採取した唾液をマイナス80度のフリーザーにストックし、ドライアイスに包んで慶大の研究所に送る。早ければ2~3週間で結果を知ることができるそうだ。
「当面は自由診療になりますが、料金はすい臓がん、乳がん、大腸がん、口腔がんの4つの検査で2万円以下。保険適用を目指し、将来は妊娠検査薬のように自分で唾液をチェックすることも可能になる」(同)
夢のような話だが、すい臓がんはわずか数カ月でステージ1から4まで進行することもあるため、こうした簡易な検査方法は極めて有効なのだ。
他方、唾液どころか、“息”だけで肺がんの早期発見を目指すのは、聖マリアンナ医科大学の宮澤輝臣特任教授(呼吸器内科)。検査にはイオン移動度分析装置(IMS)を用いる。
呼気だけで判定
「IMSは空港の麻薬探知にも導入されている、呼気の分析に特化した機械です。肺がんのなかでも大半を占める腺がんや、喫煙者に多い扁平上皮がんの患者の呼気をIMSで分析すると、マーカーとなる化合物が反応することが分かってきた。検査は専用のマウスピースに息を吹き掛けるだけなのでとても手軽です。ゆくゆくは小型化したIMSがスマートフォンに埋め込まれるかもしれません」
メールを打ちながら“がん検査”という光景も遠い未来の話ではない。