「DV防止法」成立15年で急増した「冤罪DV」実態報告――西牟田靖(ノンフィクション作家)

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■「相談証明」で先手

 今、全国でこうした「冤罪DV」と言われる事態が多発している。

 共通する現象は、ある日、妻が子どもを連れて家を出て帰ってこないことだ。夫は子どもと面会もさせてもらえない。それでも引き離されたわが子に会おうとすると、突然、ありもしない「DV」を主張された……。

 このようなDVのでっちあげが目立つようになったのは、『DV防止法』が成立、施行されてからのことだ。

「昔、法は家に入らないし干渉しないものでしたが、今は違います」

 そう話すのは家事問題に詳しい、ベテランの森公任弁護士である。

 DV防止法、正確には「配偶者暴力防止法」が2001年に成立、施行されると、「被害者」は、さまざまな「権利」を与えられることになった。

 DV被害者は、まず婦人相談所や警察などで、DVについての「相談」を受け付けてもらえる。また、配偶者の暴力からとりあえず逃れるために、婦人相談所やシェルターなどで「一時保護」してもらうことも出来るようになった。

 そして、それでも近寄ってこようとする加害者に対しては、「保護命令」を申し立てることが出来る。これを裁判所が認めれば、加害者に6カ月の接近禁止命令や2カ月の退去命令が発令されるというものだ。

 これらと並行して、配偶者と離れて新しい生活を行うための「自立支援」についての情報提供もしてもらえるようになった。

 DV被害の深刻さについては、今さら説明の必要はないだろう。被害者を助けるために、こうした手厚い保護体制が整備されたのだが、これがなぜ「冤罪」まで生んでいるのか? 先の森弁護士は、

「自分はDV被害者だと妻が思い込んでいるケースのほか、子どもを会わせなくしたり、離婚を有利に行ったりするために虚偽のDVを申し立てるケースがあります」

 と解説する。

 夫婦の関係が悪化しようと親子は親子。夫にも養育や面会の権利はある。しかし、その際、「夫はDV男」だと主張すれば、妻は夫と子の引き離しが容易に出来るということだ。

 妻が子どもを連れて家を出る。そして、夫にDVを受けたと婦人相談所や警察に相談したとしよう。するとDV防止法に基づいて、根拠がいい加減であっても、余程滅茶苦茶なものでない限り、妻側の主張は夫側の反論を聞くこともなく認められ、警察による公正な捜査もないままに、婦人相談所などを通して「相談証明」という書類が作成される。

 この問題に詳しい、ジャーナリストの宗像充氏は、

「相談の履歴によって住所非開示の支援措置が開始されます。被害者支援のことしか考えられていないので事実認定もないまま加害者とされた側は異議申し立ての手続きもなく放置され、夫婦関係や子どものことを話し合おうとしても、席に着くことさえできません」

 と話す。

 相談証明は、具体的な内容が書かれていない白紙の場合でも有効。市町村役場などの行政機関へ提出すれば、妻は、夫への住民票の閲覧制限の他、夫から独立した国民健康保険への加入などの支援措置を受けることができる。

 このように妻に行政手続きで先手を打たれれば、子どもを取り戻すのは容易ではない。後に離婚調停や訴訟の場で妻側のDV被害の主張を斥けることができたとしても、別居後、子どもと暮らしてきたという妻側の実績が“評価”されるからだ。

 さらには、離婚そのものについても、妻が夫のDVを主張すれば、慰謝料の交渉を有利に進められる。

 かように、DVをでっちあげることは一石二鳥どころか、四鳥、五鳥にもなる「手」というわけなのだ。

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