「時間厳守」は非常識!? 中国人の理解しがたい職業倫理
■日系企業は厳しすぎる?
「爆買い」に代表されるように、反日意識とは関係なく、中国人の日本商品への評価が高いことはよく知られている。では、その商品を作っている日本企業のイメージはどうかといえば、必ずしも高くないようだ。
中国人の大学生は、アメリカ系の企業には「自由」というイメージを持つ一方で、日系企業に対しては「肩苦しく、規則で縛り、礼儀を過度に重んじる」という印象が強いという。彼らは日系企業では「厳しい掟」を学ばされるというのだ。
その厳しい掟とは何か。
長年、中国で生活、取材をしてきたノンフィクション作家の青樹明子氏は、新著『中国人の頭の中』で、その「掟」の実態を紹介している。
「え? これが厳しい掟??」
その内容を聞けば、日本人は誰もが驚きを感じるはずだ。
何と中国人が「日系企業の厳しい掟」として第一に挙げているのは「時間厳守」というルールなのだ……(以下、『中国人の頭の中』より抜粋して引用)。
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■歩くのは嫌
中国人は言う。
「日系企業では、遅刻に対して異常に厳しい。10分の遅れでも、日本人上司は不機嫌になる。不思議だ。彼らは遅刻した時間を細かく計上し、ボーナスなどの考課に反映させてくる。この厳しさは、中国の実情にそぐわないのではないか」
日本人は悩む。
上海の広告会社に勤務する日本人女性A子さんは、週に1度、通訳兼秘書の女性スタッフ王さんとともに、会議のためクライアントの会社を訪れていた。受付前で待ち合わせをし、2人揃ったところで担当者に取り次いでもらう。これは日本の会社と同じである。違うのは、A子さんの秘書の王さんが、いつも必ず遅刻することだった。
何故いつも遅れるのだろう。
「朝って、タクシーが捕まらないんですよね」
朝タクシーが捕まらないのは上海の常識である。
「地下鉄で来ればいいじゃない」
王さんは「えーっ?」と声をあげる。
「家から駅まで遠いんですよ。10分は歩くし」
……。
遅刻するかもしれなくても、彼女はいつもタクシーに乗る。経費申請ができる限り、絶対にタクシーで来る。
秘書の遅刻で会議を遅らせることはできない。仕方がない、A子さんは先に1人で会議室に向かうことになる。
■遅刻はしかたない?
「通訳が遅れます、とクライアントに平謝りするんですが、クライアントの中国人スタッフは実に鷹揚なんです。タクシーは捕まらないんだよね、とか言って」
中国人同士であれば、「しようがないよねー」ですんでしまい、遅刻で人間関係に波風が立つことはあまりない。
問題となるのは日本人vs中国人の場合だ。
A子さんは、子供の頃から「時間厳守」を叩き込まれているためか、どうしても遅刻することができない。渋滞を怖れて、彼女はタクシーには絶対に乗らない。どんなに遠くても、必ず地下鉄の駅まで歩く。雨にもマケズ、風にもマケズ、夏の暑さ、冬の寒さにも耐え、15分だろうが、20分だろうが、ひたすら歩いて、時間通りに到着する。
彼女にとって、時間厳守は仕事の原点なのである。
それでも……、
「郷に入っては郷に従え。遅刻してもうるさく言わないことが、社内人間関係を円滑にしていくことなのでしょうか」。
A子さんは割り切れない思いを抱えながら、今日もひたすら歩いて地下鉄に乗る。
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それぞれの国ならではの慣習や文化があるのは当然だろう。が、この「時間厳守」に代表される生真面目さが日本商品のクオリティを支えているのではないだろうか。同書では、他にも日本人が「当たり前」と思っていて、中国人が「厳しい」と思っている掟を挙げているが、それはまた別の機会にご紹介しよう。