中村獅童「“主役は張れない運命”と言われていた僕を支えた亡き母に捧げる作品を」

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 東京神楽坂「la kagu」内レクチャースペース「soko」にて、女流時代劇研究家・ペリー荻野さんの新刊『バトル式歴史偉人伝』(新潮社刊)の刊行記念イベントが歌舞伎俳優・中村獅童さんを迎え行われた。

 Eテレの 教育番組「歴史にドキリ」で、卑弥呼から夏目漱石まで実に40人以上の歴史上の人物に扮し、歌と踊りでその功績を紹介している獅童さん。いま日本で歴史上の有名人をもっとも多く演じている俳優ともいわれている。気鋭の俳優と時代劇研究家が歴史の魅力と演じることについてたっぷり語った貴重なイベントとなった。

女流時代劇研究家のペリー荻野さん(左)、歌舞伎俳優の中村獅童さん(右)。

■大河ドラマ「新・独眼竜政宗」の主演は獅童さんに決まり!?

『バトル式歴史偉人伝』は歴史上の人物二人をとりあげ、ライバルとして戦わせ、勝敗を決するというニュータイプの人物評伝。そのなかに「宮本武蔵×柳生十兵衛」という一戦がある。偶然にも獅童さんは武蔵と十兵衛、どちらも演じたことがあった。2006年『天下騒乱~徳川三代の陰謀』で十兵衛を、2014年歌舞伎座 十二月大歌舞伎『幻武蔵』で武蔵役を演じているのだ。十兵衛をはじめ、森の石松、丹下左膳、と隻眼の役がなぜか多い獅童さん。「片目だと殺陣を演じる時に遠近感がつかめない。かなり苦労したんですよ」とその難しさを語った。

是非演じてみたい役柄に「伊達政宗」と中村さん。

 また、是非演じてみたい役柄に同じく隻眼の「伊達政宗」をあげ、これにはペリーさんも「獅童さんのイメージにぴったり。NHKの大河ドラマでやってほしいな」と激しく同意。「歌舞伎者としても知られた政宗と、挑戦を続ける獅童さんの役者としての意欲的、野心的な姿勢はたしかに通じるものがある」とペリーさんが言えば、獅童さん自身も豪放磊落でアウトローの匂いを漂わせる昭和のスターたち、勝新太郎や萩原健一、松田優作などに憧れがあると答える。江戸時代は最先端の刺激的なエンターテインメントだった歌舞伎。その当時の歌舞伎者の精神を受けついで、誰にもできない夢を追いかけて姿をみせたいと語る獅童さんの姿はたしかに歌舞伎者・政宗に重なった。

■亡き母に捧げる異色の歌舞伎作品「あらしのよるに」

「成り上がりが好きなんですよ」と笑う中村さん。

 歴史上の人物になれるとしたら? との観客の問いに獅童さんは豊臣秀吉をあげ、「成り上がりが好きなんですよ」と笑う。獅童さんは後ろ盾となる父親が歌舞伎俳優を早くに廃業したため、主役は張れない運命にあると子どものころから言われていたという。そんな状況の中でも「不可能を可能にした男」を目指して努力を重ねてきた。今年二月、大盛況のうちに東京公演が終了した『六本木歌舞伎 地球投五郎宇宙荒事』では、盟友・市川海老蔵とともに映画監督・三池崇史、劇作家・宮藤官九郎を迎え、固定観念にとらわれない、今を生きる歌舞伎を誕生させた。

 また現在、念願だった新作歌舞伎「あらしのよるに」で主演を演じている。同作は現代童話を原作としたはじめての歌舞伎作品。

「以前、僕がNHKの番組でこの作品の読み聞かせを担当した時、お袋が大喜びしたんです。不良だった僕が子どもたちのための仕事をするようになった、って」。

「9月の公演は亡き母に捧げる感謝状のような作品になる」中村さん。

 一昨年に急逝した獅童さんの母は、身を粉にして歌舞伎俳優・中村獅童の活動を全面的に支えてきたことで有名だ。9月の公演は亡き母に捧げる感謝状のような作品になるという。古典から超現代的な新作にいたる舞台、映画、そして子供向け教育番組にまで活動の幅を広げる獅童さんの熱気は客席にも伝わり、話題が時代劇の復活に及ぶとさらにヒートアップしていく。

■世界に発信できる時代劇を

 一日に三本は時代劇を見るというペリーさん。昭和の痛快な時代劇が好きだという点でも獅童さんと意見の一致を見た。獅童さんの叔父である萬屋錦之介は「破れ傘刀舟悪人狩り」や「子連れ狼」のような時代劇の名作に主演し、いずれも大人気を博したが、今や時代劇の製作は減る一方。獅童さんは危機感を募らせているという。

「24歳のころ初めて行った京都の東映で時代劇をつくる職人さんたちの厳しさと優しさに触れました。長年培われてきた技術と伝統がそこにはある。でも、時代劇が作られなければそれらも失われてしまうんです」。

 ペリーさんが「みんなの心がスカッとするような時代劇が見たいですよ! 獅童さん、お願いします!」と発すると、「僕が、日本から世界に発信できる時代劇を作ります」と獅童さんが力強く応じ、その言葉に観客一同から盛大な拍手が送られた。

■イベント模様は動画でもご覧いただけます

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■中村獅童さん出演情報
南座 九月花形歌舞伎
新作歌舞伎『あらしのよるに』

2015年9月3日(木)~9月26日(土)
詳細は[→]www.kabuki-bito.jp/

シアターコクーン・オンレパートリー2015
『青い瞳』

2015年11月1日(日)~26日(木)
詳細は[→]www.bunkamura.co.jp/

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