仲違いした親とどのように和解すればよいの 精神科医が解説/それ、「人間アレルギー」が原因です(4)
親子の関係は簡単ではない。仲違いして、関係を修復するきっかけを見いだせないこともあるだろう。年を取った親が病気で倒れたりしたら、「このまま死に別れたら」といった思いが頭をよぎるのではないか。いったんこじれてしまった親子関係は、どうすれば和解できるのだろう。
臨床経験27年のベテラン精神科医、岡田尊司さんは、『人間アレルギー なぜ「あの人」を嫌いになるのか』(新潮社刊)の中で、こう書いている。
■こじれた親子の仲
友佳梨さん(仮名)は、親から受けた心の傷にとらわれていた。この親とわかり合うのは無理だと悟り、20代の終わりから10年ほどは、親元を離れて暮らしていた。しかし、父親が病気に倒れ、和解できないまま死に別れてしまうのかと思うと、急に心細くなった。そこで一大決心をして、親元に戻ったのである。
しかし、その決断が大失敗だったことを、すぐに思い知る。離れている間は少し冷静に考えられていた親との関係だったが、毎日一緒に暮らすようになると、忘れかけていた違和感や苦しさがみるみる蘇ってきたのだ。
親の鈍感さや、すぐに否定的な言い方をするさまを見ると、過去の嫌な体験が次々とフラッシュバックし、友佳梨さんの心をかきむしるようになった。友佳梨さんは、なぜあのときあんなことをしたのかと母親を問い詰め、問い詰められた母親は、なぜわが子にそんなことを言われなければならないのかと立腹する。そのときはそのときの事情があったのだとか、昔のことを穿(ほじく)り返しても仕方がないとしか答えない母親に、友佳梨さんはますます攻撃的になった。
再び同居することによって、親への人間アレルギーが再燃してしまった友佳梨さん。しかも、ブースター効果(“免疫反応を強める仕組み”)により、ごく短期間のうちに、激しい拒絶反応を起こすことになった。まさに忌み嫌うと言っていいほどの状態になっていたのである。
■愛着を修復する
だが、結論から言えば、友佳梨さんは親と和解できた。カギはどこにあったのか。
「友佳梨さんの親に対する怒りの原因は、求めているにもかかわらず期待外れの反応しか返してこないことにありました」
岡田さんは、そう話す。
「こういう場合、大切なのは、本人だけでなく支え役になってくれる人との信頼関係もつくって、本人が本音で何を求めているかを代弁することです。表面に出ている言動を額面通りに受け取ると、まったく逆のことをしてしまい、事態を悪化させかねません」
友佳梨さんの母親も、娘にどう対応していいかわからず、困っていた。そこで、友佳梨さんがどういう思いで実家に戻ってきたかを、代弁して伝えた。母親は、娘の本音を聞きながら涙を流し、「確かに、厳しくしすぎたかもしれません」「でも、本当は優しい子なんです。私もわかってるんです」「でも、つい本人の責め口調に反応してしまんです」と吐露したという。対応の仕方をアドバイスすると、熱心に耳を傾けてくれたそうだ。
それから数日後、今度は友佳梨さんがやってきた。まるで別人のように穏やかで、その顔から憑(つ)きものが取れたように険がなくなっていた。「初めて親とうまくいっている」という言葉が聞かれた。「母親と家事をするのが楽しい」とも言った。その次にやってきたときには、「親の問題はもう乗り越えられた気がする。親にされたことも、今は何とも思っていない。それよりも、これからのことを考えていきたい」と語るようになった。
愛着が修復し、安全基地を手に入れたとき、人は放っておいても、前に進もうとする。安全基地とは、その人の存在を脅かさず、求めたら手を差し伸べてくれる優しい母親のような存在だ。
人間アレルギーが始まると、厳しさや攻撃ばかりが募り、事態を悪化させる。しかし、優しさを取り戻すことができるようなきっかけがあると、この悪循環は逆転させることが可能なのだ。
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