人とともに生きるのが困難な人への処方箋/『人間アレルギー なぜ「あの人」を嫌いになるのか』
現代人の多くを悩ませるアレルギーとは、異物の侵入から体を守るための免疫システムが、本来は排除する必要のない花粉や食べ物までを異物と認識し、攻撃してしまうことから起きる反応である。
本書で取り上げる「人間アレルギー」は、そうした体の免疫反応ではなく、“心の免疫機能”の過剰反応で起こる。人間アレルギーになると、家族、親友、恋人、仕事仲間など、本来は助け合い支え合いながら生きるはずの人に対して拒否反応を起こしてしまう。
もちろん、「心」には実体がないから、それは科学的に証明されているわけではない。そのように考えるとわかりやすいというものだ。鼻水、くしゃみ、不眠、倦怠感などさまざまな症状が花粉アレルギーで起きるように、不安障害、社会不適応、うつ症状なども人間アレルギーが引き起こした症状と考えれば、治療法も見えてくるのではないかと、著者は言う。
多くの臨床経験から著者が考える人間アレルギーの原因は「愛着障害」である。愛着形成が必要な一歳半までに養育者との間に安定した愛着を形成できないと、成人になっても他人と愛着関係を結べないというものだ。これはあたかも、乳幼児期に清潔すぎる環境で育つと、適切な免疫機能が働かなくなりアレルギーになりやすいという「衛生仮説」とそっくりな構造である。
本書では、この愛着障害を中心に、ニーチェや萩原朔太郎など人間アレルギーの症状を示した人たちの事例がふんだんに紹介され、著者の説を補強する。また愛着障害を発見するに至る数々の実験がわかりやすく解説されていて興味深い。
体のアレルギーを引き起こさないためにはアレルゲンの除去が有効だが、人間アレルギーではそれができない。人間を避けて社会生活は送れないからだ。ならばいったいどうすればよいか。私が本書から読み取ったのは、愛着障害が生じにくいように、社会を「体質改善」することだった。
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