舌の根も乾かぬうちに分裂工作! 「大阪都構想」大復活? 「橋下徹」大阪市長のデマから生まれた「野党再編」の近未来
嘘つきは泥棒の始まりというが、ならば「大嘘つき」はどんな末路を辿ることになるのだろうか――。「党は割らない」と言った舌の根も乾かぬうちに、新党を作ると豹変した橋下徹大阪市長(46)。稀代のデマゴーグによって火がつけられた、野党再編の近未来図を探る。
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「党は割らない」と言った舌の根も乾かぬうちに、新党を作ると豹変した橋下徹大阪市長(46)。
8月28日夜、大阪府内。前日に指定暴力団「山口組」の内紛騒動が明るみに出たばかりのこの日、橋下氏は自身に近い議員たちを集めて「密議」を行っていた。その場で、彼はこう述べた。
「(地域政党の)大阪維新の会の名前で国政政党化する。やるなら、政党交付金をもらうために、年内いっぱいにやらないと」
とどのつまり、気になるところはカネ。今回の維新分裂騒動の底の浅さが窺(うかが)い知れる発言だった――。
「今、党が割れるようなことはしない」
同月27日、維新の党の所属国会議員に、こうメールを送っていた橋下氏。ところがその翌日に、彼は維新を割り、新党を立ち上げると宣言したのだ。「嘘その1」である。
しかも、11月22日の大阪府知事、市長のダブル選では、またぞろ都構想を旗印に掲げるというのだ。橋下氏は2012年8月、「(住民投票で)過半数を取れるまで(都構想の)区割りを変えまくる」
こう述べ、都構想を実現させるまで何度でも住民投票を行うと強気の姿勢を見せていた。しかし今年5月、住民投票を目前に控え、旗色が悪くなってくると、
「何度もやるものではない。1回限りだ」
と、「悲壮感」を漂わせて退路を断つ「演出」を行い、同情を買う作戦に出てみせた。この時点で「嘘その2」だが、さらに今回、この言を翻(ひるがえ)し、再び都構想を持ち出してきたのだ。「嘘その3」である。
短期間にこれだけの嘘を並べ立てる政治家を、どう信用すればいいのか知っている人がいたら教えてほしいが、政治アナリストの伊藤惇夫氏が、「嘘その1」から「嘘その3」までを踏まえた上で、至極もっともな解説をする。
「橋下さんの言動は、いかがなものでしょうか。政治家とは、何か物を作ったり、売ったりする職業ではありません。自身の発言を理解してもらい、それによって信頼を得ることで政治を良くしていく。つまり、言葉が全てなんです。わずか一日で言葉をひっくり返してしまう人を、政治家として信用できるはずもない。彼は政治家としての資質に欠けていると言わざるを得ません」
■「仁義なき戦い」
また、大阪市民で帝塚山学院大学教授の薬師院仁志氏は、「嘘その2」および「嘘その3」についてこう呆れる。
「橋下さんの常套句は『対案を出せ』ですが、重ねて都構想を持ち出すということは、彼にはそれ以外の政策がなく、都構想を繰り返し持ち出すしか生きていく道がないことを物語っています。橋下さん自身に、都構想以外の『対案』がないわけですね。そもそも大阪市民には厭戦気分が漂っています。一度敗れたのに性懲りもなく都構想か、大阪市の町内会や商店会の対立をもう煽らないでくれ、という感じです」
そして、
「橋下さんは、8月30日に行われた枚方(ひらかた)市長選(大阪府)に今回の騒動をぶつけてきたに過ぎない。今年に入って吹田市長選(同前)、住民投票と、橋下維新は大きな戦いで敗北を喫してきた。今度の枚方市長選でも負けてしまえば、11月のダブル選での苦戦は必至です。そこで、どうしても落とせない選挙の前に、『話題作り』として新党話をぶち上げた。案の定と言うべきか、枚方市長選では2355票の僅差で橋下維新の候補が勝ちました」(同)
さらに、5月に住民投票で橋下維新と対決した、自民党大阪府連会長の竹本直一衆議院議員もこう吐き捨てる。
「橋下さんが都構想に熱中する一方で、その間に、大阪府のひとりあたりの県民所得が下がるなど経済は悪化。いま、大阪に必要なのは都構想云々(うんぬん)ではなく、経済の立て直しなんです。それに、一事不再理という原則もあるわけですから、住民投票でノーがつきつけられた矢先に、続けて都構想とは理解に苦しみます」
こうして多くの人が戸惑い、呆然とする、「橋下劇場」の経緯を改めて振り返っておく。
8月14日、維新の柿沢未途幹事長が山形市長選(9月13日投開票)の立候補予定者を応援すると、民主党、共産党が支援している人物を後押しするとはけしからんとして、橋下氏(維新の党最高顧問)と松井一郎・大阪府知事(同党顧問)が攻撃を開始。責任を取って柿沢氏が幹事長を辞任するか、自分たちが最高顧問と顧問を辞めて党を去るかのどちらかを選ぶしかない、さあ、どうする――と、ヤクザ顔負けの「落とし前」を迫ったが、維新の松野頼久代表は柿沢氏を庇(かば)い続けた。
その結果、橋下・松井両氏を中心とする「橋下組」と、松野・柿沢両氏らで構成される「松野組」の両陣営は「仁義なき戦い」へと突入したのだった。
「もともと、橋下組と松野組は反りが合わなかった」
と、政治部記者が振り返る。
「前者は大阪を基盤とし、与党志向。後者は九州や東京など関西以外が地元で、野党志向。端(はな)から水が合わず、内紛の火種を抱えた状態が続いていました。それが、柿沢問題で火を噴いた形です」
結局、柿沢氏が続投の意思を変えない、すなわち松野氏が譲らないと見た橋下・松井両氏は、自分たち2人だけが離党する道を選んだ。それが27日のメールである。
しかし、結果は先に触れた通りで「嘘その1」となり、橋下氏ら2人だけでなく、橋下組のメンバーら20人程度を引き連れて党を割り、10月下旬に新党を結成する運びとなった。
■「いっちょかみ」
このように、血みどろの抗争を繰り広げる両陣営だが、橋下組の一員である国会議員が松野組への不満をぶちまける。
「27日の時点で、橋下さんと松野さんの間では折り合いがついとった。橋下さんと松井さんの2人だけが離党するということで。せやけど、松野さんが『上手くいった』『むしろ、これで党はすっきりした』なんて言い回っているという話が伝わってきた。橋下さんと松井さんにしてみれば、自分たちが潔く身を退(ひ)いてやったのに、感謝の言葉もないどころか、逆にせいせいしたと言わんばかりの松野さんの態度に我慢できんくなって、仕方なく新党を立ち上げることになった」
一方、松野組から聞こえてくる話は異なる。
「今回の騒動は、松野代表たちが橋下さんと松井さんに因縁(いんねん)をつけられたってことです」
と、松野氏に近い国会議員は愚痴る。
「だって、言っちゃ何ですが、たかが山形市長選の話ですよ。しかも、まだ選挙も始まっていない段階なのに、それを理由に幹事長を辞めろだなんて、イチャモン以外の何物でもないでしょう。つまり、松野代表たちに維新を主導されるのがイヤで、何かケチをつけることができないか、向こうさん(橋下組)はずっと強請(ゆす)りのネタを探していたわけです」
因縁、イチャモン、強請り……。まさにヤクザ、いやチンピラの抗争を髣髴(ほうふつ)させるが、橋下ウォッチを続けてきた在阪ジャーナリストの吉富有治氏はこう突き放す。
「橋下さんはかつて、『政権政党に対抗できる新たな勢力を作らないといけない』と公言していました。したがって、松野さんが進めようとしている野党再編に文句を言うのは筋違い。つまり橋下さんはね、大阪弁で言うところの『いっちょかみ』なんですよ。いっちょかみとは、とにかく何にでも首を突っ込む人のことです」
今回の維新分裂騒動から透けて見える橋下氏のケンカ殺法、そしてそれによって世間の注目を集めようとする打算。それは冒頭で紹介した「密議」の場での発言に如実に表れている。維新関係者によれば、その場で橋下氏は他にもこんな話を披露したという。
「(今後の選挙では)どちらが本物かを問う。維新の党と、(国政新党の)大阪維新の対決だ」
「(10月1日告示の維新の党の)代表選には、こちらから候補者を出さないほうがいい。代表選で負けて新党というのは格好悪い。ダブル選は、絶対に勝たないといけない」
新党結成どころか、松野組を潰すのだという「狂気」と同時に、先に薬師院氏が言及した通り、ダブル選に向けた話題作りの匂いがプンプンと伝わってくる。なお、この場に同席していた松井氏も、
「(新党)大阪維新の略称は『大維』。全国で大維と言い倒して、向こうは偽物だとアピールする」
こう加勢し、喧嘩の火に油を注いだのだった。
■松野氏その人が壁
もはや、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの域に入っている感が漂う橋下組と松野組のドンパチ。しかし、国民を徒(いたずら)に振り回した今回の分裂騒動の「副産物」として、中央政界の見取り図がすっきりする側面があるという。
前出の伊藤氏が説明する。
「維新の分裂により、『与党組』と『野党組』の色分けがはっきりするでしょう。前者は自民党、公明党の現政権与党に加えて、安倍自民に擦り寄っていくであろう橋下さんの大阪維新。ここに、次世代の党や日本を元気にする会といった、与(よ)党と野(や)党の間を放浪している“ゆ党”が参加する。後者には、民主党に松野さんたちの維新の党が加勢し、社民、共産、生活の各党も対与党で連携。与野党の対立構図がより明確になるはずです」
だが、すんなり野党再編とはいかない。
「維新の党の衆議院議員は、ほとんどが比例復活当選組です。そのため政党間の移動が禁じられていて、すぐには合流できません」(同)
なにしろ、松野氏自身が比例復活当選組なのだから、何をかいわんやである。加えて、
「江田さん(憲司・前維新の党代表)などは、みんなの党出身ですから、彼らを受け入れることに対して民主党内に抵抗はない。でも、民主党出身議員となると話は別です。彼らは、民主党が政権を失う直前に、このまま残っていては自分の政治生命が危ないと、民主党を見限って離党していった面々です。素直に、また一緒にやろうとはいきません。実際、枝野さん(幸男・民主党幹事長)はオフレコで、『(松野組との連携について)党内に、アレルギーを持っている人がいるのは事実』と漏らしています」(前出の記者)
野党の連携を阻む「民主党裏切りの怨念」というハードル。この障害を作り出している当事者も、12年の「民主党政権陥落総選挙」の直前に民主党を逃げ出した松野氏なのである。
野党再編を目指して、橋下氏と袂を分かったはずの「松野組長」その人が、野党再編の壁になっているとは何たる皮肉か。
一方、橋下氏の今後の見通しを、政治評論家の浅川博忠氏はこう見る。
「新党を作り、与党志向を強めることで、かねて噂されてきた民間閣僚の芽が再び出てくる可能性があります。参院でも安保法案の強行採決をすれば、安倍内閣の支持率は確実にまた下がる。そうした状況で、橋下さんが政権に加わることになれば、内閣の目玉として安倍総理の心強い味方になるでしょうからね」
ダブル選に向けた話題作り、さらには自身の入閣の可能性をも高めることに成功した橋下氏。つまるところ、
「今回の維新分裂劇は、橋下さんの私利私欲を満たすための茶番劇に過ぎません」(同)
「大嘘つき」の橋下氏の猿芝居に踊らされてきた「我ら衆愚」。しかし、「オオカミ少年」の結末は決まっている。結局、誰からも信じてもらえなくなり……。
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