米「乱射男」に下った“終身刑×12”+“禁固3318年”

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 一説によれば、預言者モーセがイスラエルの民を率いてエジプトを逃れたのは紀元前1260年頃のこと。

 おおよそ3300年前の世界と言えばもはや神話と隣り合わせ、生身の人間がそんな悠久の時を生き長らえるはずもないが、アメリカ・コロラド州で8月26日、全米史上4番目の長さの刑期を命じる判決が下った。

「2012年にオーロラという町のモールにある映画館で、銃を乱射して12名を殺害、70名の負傷者を出したジェームズ・ホームズ被告(27)に対し、裁判長は仮釈放なしの終身刑12回と3318年の禁固刑を言い渡しました。検察は死刑を求刑していましたが、陪審員の1人が死刑には反対したのです」(国際部記者)

 事件当時、ホームズは大学院生。10代前半から人を殺してみたいという衝動があった彼は、ヘルメットにガスマスク、防弾チョッキを身に着けて『ダークナイト』を深夜上映中の映画館に侵入。催涙ガスを投げ込んだのち、ショットガン、ライフル、拳銃で無差別に人を襲った。

“モンスター”とも称されたホームズに対して裁判長は、〈いかなる同情にも値しない〉と述べ、傍聴席からは拍手が起きたという。

 それにしても、アメリカではこれまでにも「終身刑21回」という判決や「禁固1万年」などといった判決が下ったこともある。

 上智大学法学部の岩田太教授は言う。

「州によって細部は異なりますが、アメリカでは基本的に、複数の被害者がいれば複数の犯罪=訴因がある、という考え方をします」

 結果、ホームズの訴因は165にも及んだ。前出記者が解説する。

「判決では、12名の殺人で終身刑12回、刑期最大48年の第1級殺人未遂が67件、32年の第2級殺人未遂が3件、また、爆発物所持1件で6年が加算され、計3318年となったのです」

 1人の被害者が被った損害が、加害者に対してどの程度の罰となるかが一目瞭然の法体系なのだ。

 岩田教授は言う。

「それに、判決の意図としては、ここまでしておけば、仮に恩赦や減刑などがあったとしても、被告が社会に出てくる可能性は限りなくゼロに近くなる、ということもあったでしょう」

“怪物”の記憶を神話の彼方に追いやるがごとく、男は刑務所に封じられるのだ。

週刊新潮 2015年9月10号掲載

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