【声優のアイコ事件】犯人が獄中で語った「出産」と「多重人格」

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 昨年から今年にかけ、昏睡強盗など5件の事件で逮捕された「声優のアイコ」こと、神(じん)いっき。女として生まれたものの普段は男として暮らしている性同一性障害者が、「女装」して犯行に及んだことだけでも異常な話だが、逮捕後には妊娠が発覚、神被告は獄中出産した。

さらに裁判では多重人格であるとも主張して、この一年、大いに世間の耳目を集めてきた事件である。

 写真家のインベカヲリ★さんは、先ごろ、獄中の神いっき被告に接見し、出産や性同一性障害について直接話を聞いてきた。その一部始終が、「別人格出廷! 日本発“多重人格裁判”となった『声優のアイコ事件』」として「新潮45」9月号に掲載されている。

 記事によれば、別人格が出廷したのは4月16日に行われた第4回裁判。

 神いっき被告はそれまでとまったく違う様子で現れたという。45分遅れで開廷した法廷に入ってきた神被告は、明らかに挙動不審。冒頭、裁判長から名前を尋ねられたが、自身の名前さえうまく答えられない。しばらくしてようやく小さな幼児のような声で、「人間、僕ゲンキ」、そして「お兄ちゃん、神いっき」という言葉を絞り出したのだという。

“女装時”の神いっき被告
(警視庁の公開写真より)

 裁判長は尋常でない様子にわずか5分で審理を打ち切った。だが、その閉廷を告げる声と同時に、再び「お兄ちゃんは悪くありません」との幼い声が響いたのだった。

 第8回公判では男であろうとする神被告に戻り、それまで否認してきた容疑をすべて認めた。そして自身は「多重人格者」であり、事件は他の人格が犯したと主張するに至った。その詳細は、第9回、第10回の被告人質問で語られ、ゲンキの他にもコウジという人格がいることが明らかにされた――。

 インベカヲリ★氏は、リストカットしたり、向精神薬を常用するような精神的に不安定な女性を撮り続けている写真家である。『やっぱ月帰るわ、私。』という写真集や『取扱い注意な女たち』『ノーモア 立川明日香』(ともに共著)という著作がある。昨年からこの事件の取材を始め、多重人格者との主張があってからは、東京拘置所で神被告と接見を重ねてきた。

 神被告はインベ氏に対し、まず出産についてこう語ったという。

「男のケジメとして産みました。自分は父親になったんだなぁと思いました」

 神被告は、乳房切除手術を受けているが、下半身は手術していない。だから産めたわけだが、なんと母親ではなく父親という認識なのである。

 子供は女児だったという。だが、その赤ん坊と過ごしたのは5日だけだった。

 そして多重人格についても、驚愕の事実が明かされた。ゲンキ、コウジの他、あと二人の人格がいるというのだ。

「弁護士さんから聞いたんですが、ゲンキ君は、他にも同い年の女の子がいると言っているらしい。あと、オバサンがいるとか」

 インベ氏がそのオバサンが「アイコ」ではないかと問うと、「そうかもしれないですね」と応じた。弁護士の前でゲンキの人格になった神被告は、さまざまなことをしゃべったらしい。だが、別人格になっている間は一切の記憶がないという。

 インベ氏はこうした神被告とのやりとりをこの記事で詳しくレポートする。

 現在、裁判では責任能力の有無が焦点となり、9月に精神鑑定が始まる。果たしてそこで別の人格は現れるのか。多重人格と診断されるのか。

 別人格出廷という日本初の本格的多重人格裁判となったこの事件の今後が注目される。

新潮45 2015年9月号掲載

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