ド素人なのに最優秀女優賞を射止めた4人の女性の演技力

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 女優ならだれもが憧れる国際映画祭の最優秀女優賞。それを日本人の、まったく無名なド素人4人が受賞してしまった。名女優も立つ瀬がなさそうだが、そんな4人の演技力って?

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 椿事が起きた南スイスのロカルノ国際映画祭の評価は、カンヌ、ベルリン、ヴェネツィアの世界三大映画祭には及ばないものの、そうは負けていないという。

「ロカルノはインディーズ系や、若手や無名の監督の作品を応援する色彩が強く、そうした映画祭としては世界的に有名です。映画祭は今、ネットなどで簡単に応募できるため応募総数も増えているだけに、受賞は率直に立派です」(映画評論家の北川れい子さん)

 件(くだん)の映画は、アラフォー女性の恋や結婚を描いた濱口竜介監督(36)の「ハッピーアワー」だが、監督自身がなかなかの変わり種で、

「東大文学部をへて東京芸大院を修了したインテリで、小規模な映画や、大震災後の東北記録映画を撮った後に『ハッピーアワー』に挑んだ」(映画ライター)

 神戸映画資料館の田中範子支配人によれば、

「一昨年春、濱口さんが関西を拠点に活動を考えていると聞き、神戸に誘って協力者を紹介しました。その中に偶然、東北記録映画のプロデューサーだった芹沢高志さんがいて、即興演技ワークショップの話が具体化したのです」

 濱口監督自身が、話を継いで言う。

「演技経験不問で人を募り、50名ほどの応募者から17人を選びました。映画を作るという前提で開催しましたが、演技を勉強するより人に話を聞くことをテーマにしていた。表現力は人に聞かれていることで発揮されると僕は思うからです」

■非常な生々しさ

 結果、主役に選ばれた4人も素人ばかりで、田中幸恵さん(41)は劇場スタッフ兼ダンサー。所属するNPO法人DANCE BOXの同僚、文(あや)さんが言う。

「彼女は5年前までドイツでダンス活動をし、今は地域の人向けにダンスのワークショップを開いたりしていて、演技経験はない。日本でどう表現活動をするか迷い、監督のワークショップに参加したようです」

 川村りらさん(39)は美大を卒業したイラストレーター、三原麻衣子さん(41)と菊池葉月さん(37)はいわゆる勤め人である。

 むろん、最初から撮影がうまくいくはずがない。

「平日はみな仕事をしているため、8カ月間週末に集まって撮影しましたが、ワークショップで演技自体のレッスンはあまりしなかったので、撮影開始後、試行錯誤しつつ進めました。本読みを繰り返し、台詞が体に馴染んだ状態で撮影するうちに、素晴らしい演技になっていった。だから最初の1カ月に撮った映像は使っていません」(濱口監督)

 ワークショップを主催した芹沢氏によれば、

「この人物ならこう話すだろう、と参加者側から脚本チームに伝えられる部分が多く、演じる側は自然と登場人物に自分を重ねていったのだと思う。結果、映画の中の彼女らには、奇妙な現実感と、非常な生々しさを感じました」

 ちなみに4人はノーギャラ。興行収入から支払う予定だそうだが、女優の華やかなイメージからはやはり遠い。実際、みな女優を続けるつもりもないんだとか。

「ワイド特集 陽炎の人」より

週刊新潮 2015年8月27号掲載

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