山口瞳『男性自身』傑作選 「近頃の職人」(1972年6月)

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 すでに鬼籍に入ってしまったが、達人の「精神」は今も週刊新潮の中に脈々と息づいている。山口瞳氏の『男性自身』。幾星霜を経てなお色あせない厳選「傑作コラム集」。

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 将棋の駒(こま)造りの名人である宮松幹太郎さんが亡くなったことを新聞で見たときは、驚きもしたし、がっかりもした。私も将棋連盟の方を通じて駒を頼んであったのだ。その話が出たのは二年以上も前のことになろうか。名人気質の人で、なかなか仕事をしてくれないのだと聞いていた。私は、あと二年でも三年でも待つつもりでいた。...

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