山口瞳『男性自身』傑作選 「正論を吐く男」(1970年10月)
すでに鬼籍に入ってしまったが、達人の「精神」は今も週刊新潮の中に脈々と息づいている。山口瞳氏の『男性自身』。幾星霜を経てなお色あせない厳選「傑作コラム集」。
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AとBが酒を飲んでいる。AがBにからんだとする。クダを巻くでもいい。
この場合、たいていは、Aの言うことは正しいのである。正論である。
酒を飲んでカラムというときに、間違ったことを言いだして因縁をつけると思われがちであるが、決してそうではない。酒を飲んで、どうかして、遂に正論を吐くにいたるのである。...