猛暑での水分摂取は、水か、スイカか、スポーツドリンクか?――健康にいいのはどっちだ?(1)

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 あたかも猛暑襲来の夏である。〈つぎくるゝ茶のすぐ冷えて夏近し〉(久保田万太郎)と思う間もなく、列島はすでに暑熱へ入り込んでいるのだ。そんななかで何を飲み・食べ、また摂るべきでないのか。どう振る舞い、何を避けるべきなのか。斯界の専門家が語った「健康にいいのはどっちだ?」

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 猛暑の日本列島では過去最多のペースで熱中症患者が溢れている。熱中症が侮れないのは、これが脳梗塞とつながっている、いや脳梗塞とほぼ同義だからである。
「脳梗塞、脳出血、そしてくも膜下出血を合わせた脳卒中全体の発生率は冬場の方が多い。でも脳梗塞に限れば夏に多発しているのです」

 と、脳神経外科医で『眞田クリニック』院長の眞田祥一医師が次のように続ける。

「熱中症は脳における血流の循環障害でもあり、広義の脳梗塞なのです。普通の状態だと脳を巡る血流は一定量ですが、汗をかき脱水状態になることで、この循環が悪くなり、“夏の脳梗塞”が起きる。脱水防止には水分を摂ることが肝要です」

 となると何を飲むべきか。それが設問1である。

【Q.1】「水」か「清涼飲料水」か

「水です」

 と即答するのは、石黒伸医師である。『医療法人アクア』理事長で、アクアドクターの異名を取る。

「清涼飲料水は糖分量が多くお勧めできません。スポーツドリンクも清涼飲料水ほどではないにしても糖分が多い。なぜか。スポーツをやっている人向けの飲み物だからです。水分以外に余計な糖分を摂って、結果、太ってしまうことでしょう」

 おしなべて言うわけにはいかないが、清涼飲料水には500ミリリットルあたり約10%の砂糖が入っているものが少なくない。スティック・シュガー換算で20本弱である。

「これは1日に必要な糖分の量に相当する。普通に生活していれば、他でも随時口に入れますから、ひとつの食品でこの砂糖の量は摂りすぎ。それに清涼飲料水を一息に飲むと血糖値が急激にあがり、糖尿病にもなりかねません」

 こう後を受けるのは、『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)などの著書がある大西睦子医師。2007年から13年まで、米ハーバード大で、肥満や老化などの研究にかかわってきた。

「そのうえ」

 と、こう言葉を継ぐ。

「アメリカのスポーツドリンクは5年ほど前まで、日本の清涼飲料水よりはるかに糖分量が多かった。甘くて美味しいから子供がぐいぐい飲み、肥満や糖尿病になるケースが増えて、社会問題化していたのです」

 口当たりがいいだけに、心はやすやすと譲歩する。そこが落とし穴なのだ。

 次に、どう飲むべきか。

【Q.2】日中、体重60キロの人が1時間あたりに飲むべき水の量は「180ミリリットル」か「360ミリリットル」か

「そもそも」

 と、これは先の眞田医師の解説である。

「水はがぶがぶ飲むと尿として出るだけ。場合によっては、『低ナトリウム血症』になりかねない。逆にちょっとずつ飲むことで、胃からも吸収できて効果的です」

 低ナトリウム血症とは、水分を必要以上に摂りすぎたり、大量に汗をかいて体内の塩分量が不足したりすると起こる。石黒アクアドクターによると、

「体重40キロと80キロの方がいて、飲むべき量がどちらも同じということはありません。それに、“水は身体に良い”という知識だけで一気に飲んでしまうのは危険。血が薄まって血中のナトリウム濃度が低下し、脳が水膨れになり、最悪の場合は死に至ります」

 事実、米国のラジオ番組の企画で、2時間に7リットルもの水を飲んだ出場者が、当日夜に死亡したこともあるという。極端な例としても物騒な話だが、こんな福音があるのだ。

「適正摂取量を割り出すのはとても簡単です。まず、あなたの体重に30という指数をかけてください。その値にミリリットリの単位をつけたものが、1日に飲むべき水の総量。さらに、起きて活動している時間数でこれを割るのです」(同)

 つまり、体重60キロなら1日に必要なのは1800ミリリットルで、仮に10時間の活動とすると、「1時間に180ミリリットル摂取」というわけだ。

 今度は、夏の果物の代表が水に挑んだらどうだろう。

【Q.3】「水」か「スイカ」か

「スイカには疲労回復の効果が期待できるカリウムや鉄分などが多い。また、血圧を下げたり、抗酸化作用と言ってがんや老化を防ぐ力もある。おまけにその糖分はエネルギーに変わりやすいという特長があり、総合的に水に優っているのです」

 とスイカに軍配を上げるのが先の大西女史。加えて、

「スイカは、糖分を約5%含むものの、90%以上が水分で、さらに食物繊維も含むため、他のデザートや清涼飲料水などに比べて血糖値が急激にあがりにくいのです。水分も大量に含んでいますからスポーツ等で発汗した後にも非常に良いのです」

 たくさん汗をかいた後はごくごく水を飲みたくなるものだが、それは前述したように禁物。次から次へと勢いよく摂取できないスイカは、その点でも“優等生”なのだ。

「それから、“ものを飲む”ことが難しいお年寄りにとって非常にありがたい存在。スイカは小さくスプーンに乗せればおちょぼ口でもするっと入りますから」(同)

 次回「健康にいいのはどっちだ?(2)」では「飲む」から「食べる」にテーマを変えてみてゆこう。

「特集 猛暑の夏の健康にいいのはどっちだ?」より

週刊新潮 2015年8月13・20日夏季特大号掲載

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