放置すれば昭和40年不況の二の舞!? 「東京五輪」宴の後の大不況に備える!――西所正道(ノンフィクション・ライター)

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■超高齢都市

 ならば、五輪不況を政策的に避ける方法はないのか。

 前出の菊池氏は、地方に予算が回るような政策を立てるべきだという。なかでも強調するのは「国土強靭化」。これは安倍政権が打ち出してきたものだが、菊池氏は次のように話す。

「地震対策に加え、国土刷新計画を立案し、老朽化した道路や橋などを改修する。スクラップ・アンド・ビルドによる新時代にふさわしい公共投資が必要です。いまの低成長の原因は官民の投資の不足にあります。建設工事は経済への波及効果が大きい。建設機械、電機などいろいろな業界にカネが行き渡るからです。これを継続的に実行することで、疲弊した地方を蘇らせることができ、ひいては日本経済が安定軌道に乗るのです」

 同様に高橋氏は、いま盛り上げるべきは地方だとしたうえでこんな指摘をする。

「例えば農産物にしても、外国に輸出できる品質の高いものもたくさんある。大量生産ではなく、個々の集団は小さくても、全国各所の力が集まれば大きな力になる。里山に眠る資源を活用する『里山資本主義』のような発想で、要するに“地域に根付く資源をうまく活用して地域を活性化させていく”わけです。これこそ日本が目指すべき道ですよ。オリンピックで東京にお金が回ればそれだけ、本来地方へ行くべき部分を横取りすることになる。安倍政権は正反対のことをしている。すぐにでも、地方にしっかりと予算をつけて、資源を育てるべきでしょう」

 前出の永濱氏は、アベノミクスの「第三の矢」(民間投資を喚起する成長戦略)を着実に遂行することが、五輪不況の回避に欠かせないと見る。そこでポイントとなるのが、「稼ぐ力を取り戻すこと」に加えて「担い手を生み出すこと」である。

「稼ぐ力に関しては、正社員の解雇ルールを明確化して、新卒正社員の採用環境を改善することです。次に担い手に関しては、女性やシニア、外国人に労働の機会を与える政策が必要となってくる。女性に関しては子育てしながら働ける環境を、元気なシニアにも働ける環境を、そして外国人には日本に留学できるチャンスを与え、将来は日本で就職する道筋をつけるのです」

 さらに高齢化社会に伴い、社会保障の効率化も必須だ。健康保険の適用範囲を狭めたり、経済的に余裕のある後期高齢者には医療費のさらなる自己負担増がのしかかる可能性もある……。

「年金の支給開始年齢も、70歳に引き上げられる可能性は十分あると思います。欧米先進国は日本より平均寿命が短いのに、年金支給開始年齢は68歳前後に引き上げられることが決まっていますから」(同)

 2020年、東京都の65歳以上の割合は26%を超えると予測されている。これだけの超高齢都市で五輪を催すのは珍しいことだろう。

 65歳以上が高齢者との定義が広く用いられだしたのは、1960年頃のこと。当時の平均寿命は男65歳、女70歳ほどで、いまより約15歳も短かった。ならば年金の支給年齢の引き上げはもちろん、高齢者の定義もまた変わるのかもしれない。

 消費増税、異次元金融緩和、国土強靭化、地方の活力アップ、外国人への“門戸開放”、世話をされる世代への負担増……。それぞれの舵取りを間違えば、「五輪後不況」がやってきて、にっちもさっちもいかない状況に陥る危険性があるのだ。

西所正道(ノンフィクション・ライター)

週刊新潮 2015年8月13・20日夏季特大号掲載

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