夏休みは空き巣の一番の稼ぎ時! 伝説の「泥棒刑事」が警告する「あなたの自宅は隙だらけ」――小川泰平(元神奈川県警刑事・犯罪ジャーナリスト)
夏休みの到来に胸を躍らせるのは子供たちばかりではない。虎視眈々と留守宅を狙う“空き巣”にとって、この時期は最大の稼ぎ時。知事褒賞をはじめ、500回以上の受賞歴を誇る伝説の「泥棒刑事」が、真夏の窃盗被害から我が家を守る防犯対策を教授する。
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まず知ってほしいのは、“窃盗事件”が皆さんにとって最も身近な犯罪であるという事実です。
警察庁が発表した昨年の統計によれば、窃盗犯の認知件数は89万7259件と、全刑法犯の74%を占めています。その多くは万引きや自転車盗ですが、空き巣をはじめとする個人宅を狙った“侵入盗(泥棒)”だけでも年間4万8120件に上る。これは振り込め詐欺の4倍を超える数字で、約11分に1件のペースで被害が発生している計算です。
私は2009年に神奈川県警を退職するまで、約30年間の警察人生の大半を“泥棒刑事(ドロ刑)”として過ごしました。ドロ刑とは、窃盗だけで生計を立てる“職業泥棒”の捜査・逮捕・取り調べを専門とする刑事です。実際、私も所轄の盗犯係を皮切りに、県警本部の捜査3課、国際捜査課などで、数多のプロの泥棒たちと対峙してきました。
その経験からも、多くの方が帰省や海外旅行で家を空ける8月のお盆休み前後が、泥棒にとって格好の稼ぎ時なのは明らかです。今回は元泥棒刑事の威信を懸けて、一般家庭でも活用できる防犯対策を教授したいと思います。
そもそも、住宅を狙った侵入盗は、留守宅を狙う「空き巣」と、家人が在宅中に侵入する「居空(いあ)き」、そして就寝中に盗みを働く「忍び込み」の3種類に分けられます。ただ、手口は違えど、“狙われる家”には似通った傾向があるのです。
たとえば、低い垣根に囲まれた昔ながらの日本家屋と、10階建てマンションの最上階の部屋であれば、後者が狙われるケースが少なくありません。一戸建てはマンションよりも住んでいる家族の人数が多く、誰かに出くわすリスクが高い。加えて、部屋数が増えるとその分だけ物色に時間を要します。そのため、空き巣は一軒家よりもマンションに狙いを定めるのです。
また、意外に思われるでしょうが、マンションの空き巣では1階、2階に次いで、最上階の部屋に被害が集中しています。特に、プライバシーに配慮した、オートロック完備の分譲マンションは危険度が高い。
その理由について、泥棒の犯行パターンをなぞる格好で解説しましょう。
最初に、オートロックは防犯上、ほぼ無意味だと考えてください。マンション住人がエントランスの自動ドアを開けた時、後から誰かがついてきても不審に思うことはほとんどありません。最近は隣室の住人の顔すら知らない場合が多いですし、管理人が常駐するマンションは減るばかり。スーツ姿で犯行に及ぶ空き巣も増えていますから、素人が見破ることは困難です。
ちなみに、マンション内に入った時点で、彼らはターゲットとする部屋を決めています。事前に外から窓を眺めて、日が暮れても灯りのつかない部屋をチェックしておくわけです。そうやって見当をつけた留守宅に侵入する空き巣を「宵空(よいあ)き」と呼び、夏場は19時頃が最も危険な時間帯です。まだ外出中の住人が多い一方、すでに辺りは暗くなっていますから帰宅すれば間違いなく部屋の電気を点ける。留守宅が多いのに加え、その確認がしやすいので空き巣にとっては“ゴールデンタイム”なのです。
もっと効率的に留守宅を探すため、フェイスブックやツイッターを悪用する連中もいますね。この時期に増えるのが、〈これからハワイにいってきま~す〉といった書き込みです。ご丁寧に〈週末には戻ります〉と書き添える方もいますが、これは、空き巣に留守を宣言しているのに等しい。SNSやブログは個人情報の宝庫で、過去の書き込みを遡れば家族構成や暮らし向きまで分かってしまうので注意してください。
さらに、スマホで撮影した写真をネット上にアップすると、設定によっては自宅が特定される危険性もあります。あるソフトを使って写真のデータを解析すると、撮影した日時やカメラの機種などとともに、撮影場所の位置情報が割り出せる。特に気を付けてほしいのは、赤ちゃんや手作り料理、室内犬の写真。こうした写真は自宅で撮影されるので住所がバレやすい。
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