「洗髪は給湯室で」 財務省キャリアの知られざる日常(1)
財務省キャリアといえば、国家公務員Ⅰ種合格者の中でも成績優秀者しかその地位につけないことで知られる。とはいえ、新人は当然、それまで普通に大学生活を送っていた者ばかり。そういう若手は「職場」でどういう扱いを受けるのか。
東大法学部を首席で卒業後、財務省に入省して2006年~2008年の2年間キャリア官僚として働いた山口真由さんは、新著『いいエリート、わるいエリート』で赤裸々に当時の体験を振り返っている。そこで描かれているのは、ブラック企業すれすれの勤務実態だった。(以下、「 」内の引用は『いいエリート、わるいエリート』より)
「お先に失礼」は無し
上司よりも早く帰れず、無駄に残業する、というのは日本企業の悪弊の一つとしてよくやり玉にあがるが、財務省にもその習慣は根強く残っているようだ。
「夜は上司よりも早く帰るということは、決してしてはいけないことです。十時を過ぎても、午前零時を過ぎても、ずっと仕事を続けます。財務省では、部下は上司より早く帰らないのが暗黙のルールなのです。
『お先に失礼します』
という言葉をフロアで耳にすることがないのは、上司や先輩よりも『お先に失礼』することはないからです」
「終電の時間が過ぎると、財務省用のバスで帰宅することになります。専用のこのバスは、午前0時30分と1時45分、毎日2便出ていました。バスは職員寮を順番にまわって、最後に下落合の新人寮に着きます。最終のバスに乗ると、帰宅時間は午前2時30分くらいです。
その便に乗れないことも頻繁にありました。
仕事が終わらずバスを逃すと、財務省の仮眠室に泊まることになります。
女性用の仮眠室は畳敷きで30人くらいが泊まれる広さでした。もっとも、女性職員は少ないので、いつもがらーんとしています。そこに一応パーテションを立てて囲み、布団を敷きます。布団は最近干された感じはなく、いつも湿っていてかび臭い匂いがしました」
給湯室で洗髪
「財務省には浴室もありますが、利用できるのは午前3時まで。それを過ぎると、入浴はあきらめるしかない。でも、仕事が3時を回ることはしょっちゅうで、特に国会の会期中は、夜中三時を過ぎても答弁を準備するための仕事が続いていることは珍しくありません。
そんな日は仕方がないので、給湯室の流しで髪を洗います。
流しの蛇口からはお湯は出ないので、冬でも冷水です。シャンプーはスーパーで購入したものを常備していましたが、水で洗髪するのは生まれて初めてのこと。シャンプーが水では泡立たないことも知りました」
「男性職員は入浴ができない夜、タオルで身体を拭いていました。でも洗髪はしないので、泊りが続くと髪がぺたっとなってしまう。
それを見ていると、だいたいどれくらい家に帰っていないのかが分かる気がしました」
最近、政府は「仕事を早く終えて夕方からはオフを楽しもう」と「ゆう活」をしきりにアピールしているが、当の官僚たちが実際にそれを実現できているかというと、はなはだ怪しいのである。