【詐欺師の素顔】「田宮二郎」を追い詰めた「M資金詐欺師」は「フィンガー5」も騙していた!
数多くの著名人の「衝撃死」が起こった昭和。とりわけ鮮烈だったのは、俳優・田宮二郎(享年43)の猟銃自殺である。「M資金詐欺」に引っかかったことが原因の一つとされるが、その首謀者は後に「フィンガー5」のメンバーも毒牙にかけていた。
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田宮が世を去ってから30年余り経った2009年の夏――。千葉県旭市で81歳の老人がひっそりと世を去った。最期の住まいはプレハブの平屋で、家賃は3万円程度。同じ市内に住む、老人の長女が言う。
「晩年、父は生活保護を受けていました。私もお金がなく、葬式も出せなかったんです。お墓も買えないので、今も遺骨は私の家に置いたままになっています」
老人の名は竹ノ下秋道という。そして尾羽打ち枯らして逝った彼こそが、30年前、田宮を騙し、翻弄した詐欺師だったのである。
「“田宮が詐欺に引っかかっている”という話を聞いたのは、1978年の5月のことでした」
と振り返るのは、当時は「週刊文春」の記者だった、作家の大下英治氏である。
「情報元は、田宮家にごく近い関係者。話を聞くと、奥さんで女優の藤由紀子さんも危機感を覚え、うちに書かれても構わないから、事実を公にして夫の目を覚ましたがっている、というのです」
こうして取材はスタートした。田宮を騙しているのは「関東畜産協同組合」理事長を名乗り、愛車はリンカーン。オークラ、ヒルトンと高級ホテルを泊まり歩く、竹ノ下なる人物だった。その竹ノ下氏が田宮に近づいたのは、77年の暮れ。言葉巧みに持ちかけたのは「M資金」の融資話だった。
M資金とは、戦後、GHQが旧日本軍から接収し、秘密資金にした――と言われる巨額の金のこと。もちろん実際には存在しないが、終戦直後から、これを融資すると言って、手数料などを騙し取る詐欺が多発し、全日空の社長やTBSの幹部が騙されたことも。ちなみに「M」とは、GHQのマーカット少将の頭文字とされる。
大下氏が続ける。
「彼は田宮に“M資金は誰にでも融資する金ではありません。日本の有為の士にだけするのです”“あなたはそれにふさわしい”“2000億円を低利で融資します。催促なしのある時払いでいい”などと、持ちかけた。実は田宮には躁鬱病の気があり、この時は“躁”。で、コロッと騙されてしまったのです」
田宮はこれを元に事業計画を立てた。
まずは、本拠地とするために、南麻布の高級マンションを3部屋購入。元麻布の自宅の隣に「迎賓館」を作るための土地を買い、3億~4億円の借金を背負った。
更に、潰れた会社の再建や、大映撮影所跡地の購入、世界人形館の建設、果ては、トンガの石油開発など、ありとあらゆる構想を立て、実行に移そうとしたのだ。
もちろん、原資は竹ノ下氏から入るはずの2000億円だったのだが……。
「ここで“計画”通り、78年の春には竹ノ下はドロン。マンション購入の手数料として900万円は取られてしまったし、高級ホテルの宿泊代500万円が田宮のツケになっていました」(同)
5月末には大下氏の記事が出て事の顛末が明らかになり、他のマスコミを巻き込んだ大騒動となった。
ようやく目を覚ました田宮は、無駄に買った不動産を売却。何とか被害を最小限度に抑えるが、今度は“鬱”状態に陥り、その年の暮れには、自宅で凄絶なる死を遂げるのであった。
■別のブローカーのせいで…
〈「M資金」詐欺、千葉の男性を逮捕〉
〈フィンガーファイブの元メンバーも被害〉
そんな見出しが新聞に躍ったのは、その20年余り後、1999年のことだった。
容疑者はまたぞろ竹ノ下氏。当時の新聞記事によれば、彼は、アイドルグループ「フィンガー5」の元メンバー・玉元一夫氏に対し、「GHQが接収していた旧華族の財産が各省庁に返還された」「うち300億円を融資する」などと持ちかけて、印紙代として400万円を騙し取ったのだという。
M資金を餌に、著名人に接近する――。竹ノ下氏の詐欺の手口は、20年経って尚、まったく変わっていなかったというワケなのだ。
先の長女が明かす。
「父は当時、愛人と一緒で、私や母とは別れて暮らしていました。しかし、出所後は女性とも別れ、冤罪を主張し続けた。個人で濡れ衣を晴らすための裁判も行っていて、亡くなったのはその最中だったのです」
長女によれば、亡父は田宮の件についても“無罪”を主張していたそうだ。
「最期まで父は、自分が田宮さんを騙したとは思っていなかったと思います。自殺の時も大層ショックを受け、“俺があの男を紹介してしまったばかりに……”としきりに後悔していました。父によれば、自分が紹介した別のブローカーの男性によって田宮さんは騙され、自殺に追い込まれてしまったということでした」
と言うから、責任の所在をはき違えたまま、彼は生涯を終えたということであろう。
詐欺師の常と言えばそれまでだが、そんな彼の姿を30年間、あの世から見続けていた田宮は、果たして、どんな思いを噛みしめていたことであろうか――。
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