「東芝」の税務調査は知らんぷり! 国税が寒い百億単位の税金還付!?

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 泣く子も黙る国税庁でも不正会計事件に揺れる東芝に限っては勝手が違うのだ。下手に調査したところで得られる税金はない。それどころか、巨額の税金還付の請求が来そうなのだ。我が国で最も怖い?人種、国税庁の税吏たちが肝を冷やす「真夏の怪談」とは――。

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「金丸さん、ワリシン(無記名債券)お持ちですよね」

 1993年3月、自民党前副総裁(当時)の金丸信氏は、この一言で脱税容疑を認めてしまう。この時、検察官が乾坤一擲の勝負に出たのは、東京国税局査察部(マルサ)が調べ上げた決定的証拠があったからだ。絶対に分からないはずの隠し財産まで突き止める、国税の調査能力がいかに凄いか、まざまざと見せつけた事件でもあった。

 時代は移って東芝の不正会計事件である。内部通報から利益の水増しが明らかになり、第三者委員会が入って調査すると、全社ぐるみの不正だったことが露見する。水増しは約7年間にもわたって続けられ、その額は実に1518億円にものぼった。

 社会部の記者が言う。

「不正会計の責任をとって、歴代社長3人が役職を辞任しましたが、これで幕引きとはいきません。すでに証券取引等監視委員会(SESC)が調査に乗り出しており、東芝には数億円~数十億円の課徴金が科されるはずです。また、株主に対する背信行為もけじめがついたとは言えない。アメリカでは投資家が訴訟を起こしていますが、第三者委員会で不正が認定されていますから、巨額の賠償命令が下る可能性が高い。さらには、違法な粉飾決算の可能性もまだ残されており、東京地検が情報を収集しています」

 事件の第二ラウンドはまだ始まったばかり。だが、これほど大きな問題なのに、かつて、政界のドンを追い詰めた国税庁の動きが聞こえてこないのはどうしたことなのか。

 国税庁の担当記者が言うのだ。

「たしかに、今回に限っては国税が調べに入ったという情報が流れてきません。国税には“専属告発権”というものがあって検察や警察に脱税の情報提供があったとしても、それを告発できる権利は国税にしかない。しかし、不正会計事件では、その宝刀を抜く様子がないのです」

 元朝日新聞編集委員で、長く国税庁担当記者だった落合博実(ひろみつ)氏によると、

「一般に国税は調査で不正を知ったとしても、それだけで動くことはありません。実際、コクドの堤義明氏が有価証券報告書の虚偽記載で摘発された時も、国税は以前から事実を把握していたと言われている。しかし、この件を告発したことはありませんでした。税金が取れる事件ではなかったからです」

 落合氏が続ける。

「私が90年代に取材した事件でも、東京地検と国税が共同で立件しようとした企業犯罪がありました。しかし、調査段階で利益を水増しする“粉飾決算”だということが分かると国税はさっさと下りてしまった。立件したとしても重加算税などで税金を取ることが出来ず、骨折り損になってしまうからです」

 あくまでも税金の徴収が第一。それが国税庁である。だが、これほど滅茶苦茶な会計をやっていれば、申告漏れの一つや二つ、たちどころに出てくるはず。

 だが、前出の国税庁担当記者によると、

「そもそも国税は東芝の内情を以前からよく知っていたはず。東芝クラスの大企業は毎年のように税務調査するからです。担当するのは“リョウチョウ”と呼ばれる東京国税局の資料調査第一課。一度に全部調べるのは大変ですから、今年はパソコン部門、来年は原子力部門という具合に分けてやってゆく。当然、SESCや金融庁よりも、東芝の金の流れに詳しくなります」

 実を言えば、今回に限って“知らんぷり”をしておきたい事情もそこにある。下手に踏み込んでも国税の得るものはないからだ。

■「更正の請求」

「国税通則法」によると、会社が払った法人税等が過大だった場合、国税に対して還付を要求出来るとある。これを「更正の請求」と言う。東芝が水増しをした利益の総額は7年間で1518億円。ここから払った法人税等は約440億円といわれている。

 元国税調査官で税理士の松嶋洋氏によると、

「仮に不正会計や粉飾決算であっても、税金を納め過ぎたという事実があるのなら、原則としては、国税に対して“更正の請求”が出来る。ただし、これらの事由に基づく更正の請求は色々と制約があります」

 この場合、さすがに国税が自主的に税を戻してくることはない。あくまで、東芝が経理を修正したうえで、国税に請求する。もちろん、その場合でもおいそれとは返さない。

「粉飾決算などの不正会計で払い過ぎたケースでは、一度に税金が戻されることはありません。大体5年ぐらいに分割して、年ごとに納税額を減額するという形で還付されるのです。まとめて返してしまうと、粉飾決算がバレても、税金が戻ってくると企業に思われてしまいますから」(税理士の鈴木修三氏)

 ちなみに、東芝が返還請求できる税金は過去5年分まで。専門家のアドバイスをもとに計算してみると、約360億円を要求できることになる。資産売却などにより銀行の支援獲得を急ぐ東芝にとってまさに干天の慈雨。一方、国税にしてみれば、不正をやらかした東芝に“追い銭”を払う格好だ。

 気になるのは、東芝の出方である。

「過去に不正経理事件を起こした企業はありますが、国税庁に対して“更正の請求”をしないケースもある。不祥事への後ろめたさと国税への遠慮があるのでしょう。しかし、株主代表訴訟の恐れもありますから、今回は請求してくるはずです」(前出の国税庁担当記者)

 そこで、同社に聞いてみると、

「現在、第三者委員会の報告書を精査しているところであり、払い過ぎの法人税の還付についても検討中です」(広報部)

 いわば国税は不正会計のとばっちりを食ったようなもの。「請求書」がいつ届くのか、背筋の寒い夏が続きそうである。

週刊新潮 2015年8月6日通巻3000号記念特大号掲載

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