「ドクター秋津」のがんになるのはどっち? PART2――秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

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■セックスの効能!?

 次の設問は、常に高い発がんリスクが指摘されてきたものについてです。

【Q3 タバコ「1日10本を40年間」と「1日40本を5年間」、肺がんリスクが高いのはどっち?】

「ブリンクマン指数」というものをご存じの方も多いでしょう。これは「1日の喫煙本数×年数」で導き出されます。この数値が400~600の人は非喫煙者の4・9倍の割合で肺がんによる死亡率が高いという数字が存在するのです。

 1日10本を40年間なら、10×40で、ブリンクマン指数は400。1日40本を5年間なら200という結果になります。1日に2箱分も吸うと、一気に肺がダメージを受けそうですが、危険数値の400に達したのは、前者の方です。たとえ1日に1箱分も吸わないという人でも、長期間、喫煙を続けていると、ヘビースモーカー並の肺がんリスクを抱えることになってしまうのです。

 またブリンクマン指数は累積毒で、いくら禁煙しても、残念ながら、過去、肺に加えた害はゼロにはできません。もっとも、今の時点以上に体に毒を加算させない意味では、やはり禁煙は重要ながん予防となります。

 タバコに関しては、昨今、受動喫煙の害もよく叫ばれています。これは、喫煙により生じる副流煙が原因です。このがんリスクを証明するものとして、「喫煙習慣のない女性が、夫がヘビースモーカーだったため、肺がんで死亡した。夫が喫煙者の場合、妻は非喫煙者でも、肺がんリスクが高まる」という調査結果がアメリカで報告されました。タバコ会社は、奥さんがこっそりタバコを吸っていた疑いがあると猛反発しました。しかし、その後、喫煙者がいる家の中で飼われている犬や猫などのペットでも、同様のリスク上昇が認められたのです。特にコリーなど鼻の長い犬は、通常より2倍も、鼻腔がんに罹患していることが明らかになっています。

 次は人を含めた動物の根源的な欲望に関する問です。

【Q4 「自慰行為が習慣の男性」と「日々、禁欲的な男性」、がんになりやすいのはどっち?】

「自慰は体に悪い」――。これは19世紀のキリスト教圏が喧伝した、根も葉もない暴論です。また現代でも、「男女とも、自慰によって、過剰な男性ホルモンや女性ホルモンが分泌され、がんのリスクが高まる」などとまことしやかに言われることがありますが、これも根拠のないデタラメです。

 逆にオーストラリアの研究者が興味深い調査結果を発表しています。「定期的に自慰を行う男性は、前立腺がんを防ぐことができる」というのです。それによると、「1週間に5回以上、射精している男性は、そうでない男性に比べ、将来的に前立腺がんになる危険性が3分の1である」とされています。精液に関しても、ある程度の新陳代謝が大事だということです。

 では、「セックスを楽しむ人」と「そうでない人」ではどうなのでしょうか。

 精力絶倫の人は生命力に満ち溢れています。一方で、枯淡の境地はストレスから遠く離れ、長寿に結びつきそうな印象もありますね。

 この設問は、昨今、債務問題によるデフォルト危機で何かと物議を醸しているギリシャにあてはめれば、真理が見えてきそうです。

 2005年、避妊具の大手メーカー「Durex」社が行ったセックスに関する国際比較調査には、「世界各国のセックス頻度」という項目がありました。ここでギリシャ人は、平均して年間138回と、堂々の世界一に輝いた。ちなみに、日本は45回と、調査対象国の中で最下位でした。

 世界で最もセックスを楽しんでいるギリシャ人(男女)の平均寿命を見ると、81歳(2013年)と、世界第20位で高水準にある。これは、ユーロ経済を牽引し、債務問題でギリシャを非難する勤勉国家、ドイツ(セックス頻度は年104回で中位)と並んでいる。女性だけなら84歳と、ドイツを1歳、上回るほどです。つまりヨーロッパで医療レベルの一番高いドイツと、それほど高くないギリシャの平均寿命はほとんど同じなのです。

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 しかも肝心のがんで比較すると、どうでしょう。

 ドイツは、乳がんや子宮頸がんなどのがん検診受診率が約70~80%と高く、一方のギリシャは低い。たとえば、2010年の50~74歳の大腸がん検診受診率は、ドイツ人が54・2%に対し、ギリシャ人は、わずか3・8%! にもかかわらず、2010年の、人ロ10万人あたりの大腸がん死亡率は、ドイツが約18であるのに比べ、ギリシャは約12と、明確に少ないのです。

 こうした統計に加え、次のような傍証もあります。かつて60年代に、エーゲ海に浮かぶギリシャのクレタ島の住民と、他のヨーロッパやアメリカの人々、そして日本人との健康比較調査が行われたことがありました。それによれば、がん検査の受診率が高い米国人と比べると、クレタ島民は受診率が低いのに、がん死亡率は半分に過ぎなかった。また健康的な日本食の約3倍の脂肪を含む食事を摂っているにもかかわらず、あらゆる疾患の死亡率が日本人の半分という驚異的な結果が明らかになったのです。

 このデータから、オリーブ油、豆、果物、野菜中心の地中海地方の食生活や、シエスタ(昼寝)の習慣が健康に良く、がんリスクを減少させているとされ、「地中海式ライフスタイル」が注目を集めました。このライフスタイルには、仕事面ではさほど勤勉ではなく、遊びを優先する快楽主義や能天気さ、そしてセックスを何より楽しむ“文化”もむろん含まれているはずです。このことからも、性の悦びを享受する人間の方が、がんのリスクを下げていると推察できるのです。

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