庄司智春「パパにとっても味方の一冊」/『ますます! 東京ひよっ子3人暮らし』
僕には3歳ちょっとになる息子、虎之助がいます。息子が生まれる直前や生まれた後、周りの方から頂いた育児本や育児の専門書などを読んだりしましたが、育児漫画というのは初めて読みました。たかはしさんの息子さんである、のっすん君の、1歳半から3歳までの成長が細やかに描かれていて、虎之助の時と重なる部分も多く、非常に共感しました。
特に印象的だったのは、1歳7ヶ月から9ヶ月の時期に、トーチャン(たかはしさんの旦那さん)とのっすん君が二人きりで、初めてお留守番をしたエピソードです。たかはしさんが事前に綿密な計画表を作っていらっしゃいましたが、僕も初めて息子と二人きりで遠出をしたとき、「この日はとーたん(僕のことです)と二人で出かけるんだからね。アンパンマンミュージアムに行って、夜ご飯食べて帰って来ようね」と、結構前からしつこく言い聞かせました。当日は、泣かずにいい子でいてくれてとても助かったのですが、帰る途中、車の中で寝てしまったのでそのまま家に帰ったら、マンションの駐車場で起きた息子が、「あれ、ご飯行かないの?」と言ったんです。「夜ご飯食べて帰って来る」までが自分の使命だと、強く感じていたみたいで。丁寧に話して教えたら、こんなに小さい子でもちゃんと記憶に残るのだという驚きと、教えられたことを守ろうと必死に頑張るんだと感動もして、息子との距離が縮まったと感じられた出来事でした。
最近はこんな風に言葉が通じたり、意思疎通ができるようになったりしてきているので、赤ちゃん時代よりも、子育てが数倍面白く感じられています。「人対人」の付き合いができるという嬉しさについて、たかはしさんは、「話し相手ができたことの喜び」を描かれていましたが、僕も、2歳になった虎之助から、ある日突然、「とーたん、大好きだよ」と言われた時には、号泣に近いくらい泣いてしまいました。質問に対する答えではなく、自発的に自分を好きと言ってくれたんだ、と。忘れられません。
たかはしさんの「ママ目線」で全体は構成されていますが、時々「パパ目線」で考えて下さっているのも、僕にはとても嬉しかったです。「トーチャン、イヤ!」とのっすん君がパパのことを全力で拒否するシーンなど、人ごととは思えませんでした。「とーたん、イヤ! ママがいい!」とか「とーたんなんて大嫌い!」とか最近も時々言われるのですが、悪気はないと分かりつつ、オレの何がいけないんだ!と落ち込みますし、そんな息子の態度は、ママにとっても負担になるので、歯がゆくて仕方なく……。そんなパパたちの寂しい気持ちも描いてくれているので、「あぁ、みんな一緒なんだ」と安心もさせてもらいました。それに、「ママ目線」を知ることで、うちの奥さんも、実は自分の知らないところでこんなに大変な思いをしたのかな、と反省するところも結構あって。ママにとって「パパの無関心」は一番腹が立つことだと思うので、パパはこれを一冊読むだけで、夫婦円満の秘訣も探れるかもしれません(笑)。
我が家はこの夏に、二人目の子どもが生まれる予定です。最近は、例えば、虎之助が僕と二人きりで寝てくれるように、今から練習しておかなきゃなど、色々と準備を始めたところなのですが、この漫画は、初めてのお子さんを迎えるパパやママの「心の準備」に、とても適していると思いました。漫画という形式が親しみやすく読みやすいことはもちろんですが、その時々にたかはしさんが感じたり考えたりしたことが、一言一言のセリフに細かく書き込まれていますし、イヤイヤ期に役に立ったアイテムひとつとっても、すべて体験に基づいているので、立体感をもって読者に伝わってきます。つまりは、専門書に断定的に書かれていることとはまた違う、リアリティを感じられるとも言えて。とにかく、ママという立場は結構孤独な面も多いので、少しでもリラックスしたり心が安らいだりして欲しいと僕は思っていて、例えば、卒乳やイヤイヤ期で困ったとき、「そういえば、たかはしさんちもそうだった!」と安心できるのではないかと感じました。何より、育児ってものすごく楽しいことだと改めて実感もさせてもらえる、パパとママの強い味方の一冊です。
庄司智春(しょうじ・ともはる お笑い芸人)