「ドクター秋津」のがんになるのはどっち? 人生はすなわち二者択一の積み重ね!――秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

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 ▼アジの干物と苺のショートケーキ
 ▼焦げた焼き魚かミディアム・レアの牛ステーキか?
 ▼ワインをグラス3杯かウィスキーのダブルを1杯か?
 ▼「鉄分」「βカロチン」のサプリを摂る人と摂らない人
 ▼食事でダイエットか運動で減量か?
 ▼花粉症の人と花粉症でない人
 ▼都会育ちと田舎育ちなら胃がんが危ないのはどっち?
 ▼「すい臓がん」超早期発見したいなら腫瘍マーカーかPET検査か?

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 今や2人に1人ががんに罹る時代を迎えた日本。医療科学がいかに進歩しても、未だがんは完治困難な国民的病だ。しかしこの恐るべき難病も、正しい知識で臨めば、9割は予防できるという。気鋭の内科医、秋津壽男(としお)医師(61)が二者択一の設問を通じ、予防法を啓発する。

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「最期はがんで死にたいね」

 私は医者仲間とよくそんな話をします。三大成人病の「がん・心臓病・脳卒中」を比べると、がんは、突然死がなく、死ぬまで意識が鮮明という“利点”があるからです。痛みのコントロールが進歩し、残された日々をどう過ごすか、考える時間を与えてくれるのは、がんだけでしょう。

 もっとも、実際に罹患するのはなるべく先にし、できれば人生の最晩年にしたい。そのためには、“がん予防”の視点が必要で、この難病について正しい知識を持つことが重要になります。リスクを回避し、医学・科学に裏打ちされた予防法を実践すれば、がんの9割は予防可能と言えます。

 そもそも、がんはどういうメカニズムで発症するのか。それは遺伝子修復のエラーによって生まれるのです。人間は、どの部位であれ、炎症やウイルス感染で体内の細胞が破壊されると、その細胞を修復しようとします。ところが、この時に細胞の遺伝子が誤って修復されると、がん細胞が生まれてしまうのです。もっともこの段階でも、体内にある「がん抑制遺伝子・細胞」が正常に機能し、免疫が働けば、がん細胞の増殖という暴走を封じ込められ、がん化には至りません。しかし、この力以上にがん細胞が暴れ出したり、「がん抑制遺伝子・細胞」の働きが低下すれば、がん発症につながってしまう。

 これを予防するには、まず細胞の修復作業の回数を極力減らし、がん細胞が芽生える機会をできるだけ回避することが肝要です。

 これから私は、読者の皆さんに、がんについての正確な知識を伝授するため、「生活習慣」や「食」「運動」「体質」などにまつわる二者択一の質問を行っていきます。ぜひ挑戦して頂き、日常生活に潜む「発がんリスク」を把握してほしいと思います。それでは第1問を始めましょう。

【Q1 「都会育ち」と「田舎育ち」、胃がんリスクが高いのはどっち?】

 ストレスの多い都会生活では、神経を使い、胃が痛むことも多い。一方、風光明媚な環境でのんびりスローライフを送れる田舎暮らしは健康的というイメージがあります。しかしながら、こと胃がん予防という観点から見れば、田舎育ちの人のハイ・リスクを指摘せざるを得ません。

 カギを握るのは、ピロリ菌という細菌の存在です。実は胃がん患者の94%がピロリ菌に感染していると言われています。感染者の胃がん発生率は、非感染者の5倍近いとされる。ある研究報告によると、「日本人約2800名を8年間追跡したところ、ピロリ菌感染者からは胃がん罹患者が発見されたのに対し、非感染者からは1例も胃がんが発生しなかった」という結果すら出ています。もはや、胃がんの大半に、ピロリ菌が関与しているのは間違いないと断言できます。そしてこの細菌感染の危機に晒される機会が多かったのが、田舎育ちの人々なのです。

 ピロリ菌は胃の中で胃酸に溶かされないよう、アンモニアを出して中和し、周りにバリアを作る。このバリアが胃壁を傷つけ、炎症を起こしてしまいます。細胞の炎症が、がん化リスクを高めることは先に説明した通りです。

 このピロリ菌感染率を見ると、50歳以上の日本人では、実に70~80%と極めて高い。イギリスやフランスなどの先進国が20~30%であるのに対し、アフリカなどの発展途上国なみのレベルです。原因として、子供の頃、井戸水を飲んだことが挙げられています。不衛生な時代、井戸水にはピロリ菌をはじめ、様々な細菌が混入しがちだった。こうした井戸水を飲んだ経験は、都会より上水道の普及が遅かった地方で育った人の方が断然多い。だから都会育ちより、田舎育ちの方が、胃がんのリスクが高いと指摘できるのです。

 ピロリ菌の検査は胃カメラの際にオプションで受けられます。また血液検査や呼気を使うタイプもある。除菌には抗生物質を使い、成功率は約7割です。

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